2015 Fiscal Year Annual Research Report
時計に対する先入観を逆利用した擬似的な時間表示変化による作業効率向上手法の構築
Publicly Offered Research
Project Area | Cognitive Interaction Design: A Model-Based Understanding of Communication and its Application to Artifact Design |
Project/Area Number |
15H01613
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
櫻井 翔 東京大学, 情報理工学(系)研究科, 研究員 (70739523)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 作業効率向上 / 時間感覚 / 行動誘導 / マルチモーダル / 意味論 / 知的能力向上 / 先入観 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,時間感覚に基づく作業推定量の予測という認知特性モデリングの検証を通じ,一定時間内における作業効率を無意識的に向上するシステムの構築である.本研究は,(A)時計の針の進む速度を制御可能な時計システムの構築を通じた時間感覚と作業量の対応の検証およびモデル化,(B)コミュニケーションを伴う作業における時間感覚と作業量の対応の検証およびモデル化,(C)時間感覚を変容させ作業効率を向上可能な時計システムの構築という計画で行なう. 初年度は,(A)について取り組んだ.具体的には,時計が示す時間が時間感覚に作用することで作業速度が変化するという仮説のもと,針の進む速度を制御可能なバーチャルアナログ時計システムを構築し,本システムの時計の針の速度が短・中時間作業の質的量的効率および時間感覚に与える影響を検証した.結果,時計の針の速度と作業速度には正の相関関係がある一方で,時間感覚や疲労,作業エラー数には変化が生じないことが示された. これは当初の仮説を覆す結果であったことから,提示刺激の形状や針の動く向き,あるいは針の動く速度(テンポ)が作業速度に影響するという新たな仮説を立て,黒縁の円の明滅速度や左回りに動く時計の針の速度を変化させた場合に加え,視覚刺激なしの場合の7条件の実験を追加で行った.結果,これらの視覚条件は作業速度に影響せず,針の動く方向が通常の時計と同じ場合のみ,視覚(形状)と速度(針の動く速度)条件間に交互作用が認められた.この結果については,「一定のテンポで右回りに進む時計の針が示す時間」が絶対であるという先入観や,時計の示す時間が行動ペースの基準となっているという経験則が強く機能するために,時計の針の速度が作業速度に影響する一方で時間感覚には影響しないと結論づけた. 加えて,(B)を検証するために,ハードウェアタイプのバーチャル時計システムの構築を進めている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では,針の進行速度を制御可能なバーチャルアナログ時計システムを用いて,時計の表示時間速度が個人の時間感覚や作業効率(作業速度,タスクパフォーマンス)に与える影響を検証する.ここでは,扱う作業を,作業難易度(単純/複雑)と作業時間(短・中時間/長時間)という2軸を用いて大きく4種類に分類し,それぞれに対してシステムの効果を検証する予定である.今年度はそのうち,単純/短・中時間作業における効果を検証している. 今年度の目標はバーチャル時計の構築,時計の表示時間速度が時間感覚および作業効率に与える影響の検証,多人数作業環境における本提案手法の効果検証であり,現在は多人数に対して同じバーチャル時計を提示するため,ハードウェアタイプの時計型デバイスを構築しており,多人数作業環境における時計の表示時間速度の影響を検証する段階に入っている. 本研究は,当初は時計の表示時間に影響された時間感覚が作業速度に作用するという仮説に基づいて進めていた.しかし,個人の短・中時間作業における検証実験を通じ,時計の進む速度が時間感覚に影響していることが作業速度変化の理由ではないという結果が得られたため,作業速度の変化が時計のどのような要因に起因しているのかを確実に明確にするための新たな実験を行なう必要が出た.この実験は当初予定していなかったものであるが,「時計が正確な時間を示す装置である」という先入観や経験則が機能していることを示唆する結果が得られたことは大きな収穫であると考えている.また,この結果は,時計を必要とする社会においては,多数の人に対して本手法が同様の効果を持つ可能性が高いことを示唆するものであると考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では,一定時間内における作業効率を無意識的に向上するシステムの構築するために,(A)時計の針の進む速度を制御可能な時計システムの構築を通じた時間感覚と作業量の対応の検証およびモデル化,(B)コミュニケーションを伴う作業における時間感覚と作業量の対応の検証およびモデル化,(C)時間感覚を変容させ作業効率を向上可能な時計システムの構築という計画で行なう. 初年度の成果として,アナログ時計については「時計の文字盤上で時計の針が右回りに動く」という見た目が担保されている場合に,時計の針の進む速度が作業速度に影響する一方で,時間感覚は変化しないことが明らかになった.この理由として,時計が示す時間が絶対であるという先入観や,時計が示す時間が行動ペースの基準となっているという経験則が強く機能したことが考えられる.そして,時計を必要とする社会においては,多数の人がこうした先入観や経験則を持っていると考えられる. 以上の結果と考察を元に,今後はまず(B)の検証を進める予定である.具体的には,現在構築を進めているハードウェアタイプの時計型デバイスを用いて,会議等の多人数作業において,時計の針の速度が作業効率(多人数会議によって生じるアイディア数や話がまとまるまでの時間等)や時間感覚に与える影響を検証する. また,思考・推論を伴う長時間の複雑作業における本提案手法の効果を検証する.ここでは,時計の針の速度が作業効率に与える影響をより精緻に検証するために,生体計測装置等を用いて,ユーザの集中力やタスクパフォーマンス,疲労に与える影響についても検証を行なう予定である.また,実際の時計とバーチャル時計が表示する時間の間に生じるずれを解消する手法を検討する. 以上の検証を通じ,(c)時計の表示時間速度と,作業量や個々のタスクパフォーマンスの対応を明らかにする.
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Research Products
(4 results)