2015 Fiscal Year Annual Research Report
タンパク質複合体内部の距離と角度の変化をリアルタイムで捉える蛍光計測法の開発
Publicly Offered Research
Project Area | Novel measurement techniques for visualizing 'live' protein molecules at work |
Project/Area Number |
15H01630
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
須河 光弘 東京大学, 総合文化研究科, 助教 (80626383)
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Project Period (FY) |
2015-06-29 – 2017-03-31
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Keywords | ATPase cycle / F1-ATPase / FRET / 1分子計測 / 構造生物学 |
Outline of Annual Research Achievements |
F1-ATPase(以下F1)の回転ステップ運動はATP結合に伴う80°ステップと加水分解反応に伴う40°ステップから成る。しかし、F1のATPase cycleにおける構造遷移はまだ解明されておらず、特にATP結合待ちの構造が未解明であった。そこで、ATP結合待ち構造の特徴を捉えることを目的として、FRETと回転の同時計測を行い、F1の回転子γの回転ステップに伴う2つのβサブユニット間の距離変化を計測した。F1を構成する3つのβのうち2つのβ間の距離を計測するので、3通りの距離が計測される。加水分解待ちの停止では、High FRET(FRET効率が約0.8)が1回、Middle FRET(FRET効率が約0.5)が2回起きた。一方で、ATP結合待ちの停止では3回ともMiddle FRETであった。これにより、ATP結合待ち構造と加水分解待ち構造それぞれに固有の構造的特徴が明らかとなった。そこで、本研究と先行研究の知見に基づいてATP結合待ち状態および加水分解待ち状態と結晶構造とを対応させた。ATP結合待ち構造と同定された結晶構造はε抑制状態の結晶構造(PDB 3oaa)であり、加水分解待ち状態と同定した結晶構造はGrand-state structureと呼ばれる結晶構造(PDB 2jdi)であった。つぎに、3oaaおよび2jdiを含む5つの代表的な結晶構造について主成分分析(PCA)による構造比較を行った。F1の固定子α3β3の構造は、βのopen/closeそしてαとβの界面のloose/tightの2つの構造変化で記述(PCA map)することができ、5つの結晶構造から成るPCA mapはATP加水分解反応に沿った構造遷移サイクルを作った。これらの結果から、F1の回転と化学反応と構造遷移の3つの共役関係を説明する包括的なATPase cycleモデルを提案した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
FRETと回転の同時計測によりF1の回転子γの回転角度、固定子α3β3の化学状態そして構造遷移というATPase cycleの概要を解明した。固定子α3β3の構造遷移はβのopne/closeとαβ界面のloose/tightで記述できることを示したわけであるが、αとβの界面の動きを直接捉えることがまだできていない。しかし、既存の1分子計測法では、αとβの界面の動きを直接捉えることは難しい。2つの偏光した蛍光間のFRETを利用した偏光FRET法であればαとβの界面の動きを直接捉えられる可能性がある。この偏光FRET法を実現させるには2つの蛍光色素をタンパク質の部位特異的に蛍光修飾した上で偏光させる必要がある。そこで、Cy3-bis-maleimideおよびCy5-bis-maleimideを合成した。収率はやや低いものの、1分子実験に使用するには十分な量を得ることができた。合成したCy3-bis-maleimideを、1つのα-helixに2つのCys変異を導入しているタンパク質に部位特異的に修飾できることを確認した。
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Strategy for Future Research Activity |
F1のαとβのそれぞれα-helixに2箇所Cys変異を導入したdouble Cys変異体の作成を進めている。Double Cys変異体が作成でき次第、合成したCy3-bis-maleimideおよびCy5-maleimideを修飾し、偏光FRET法を行う予定である。ただし、F1複合体においてαとβは交互に配置し、αとβのCys変異導入箇所が近接している。よって、αとβそれぞれにCys変異導入したF1を作成してCy3-bis-maleimideおよびCy5-bis-maleimideで修飾した場合には、αとβを架橋するように蛍光が修飾されてしまう可能性がある。そこで、βのCys変異体のみ単独で発現精製し、Cy3-bis-maleimideで修飾したサンプル(Cy3-β)を用意する。一方、αにのみdouble Cys変異を導入したF1を発現精製し、Cy5-bis-maleimideで修飾したサンプル(F1(α-Cy5))を用意する。その後、Cy3-βとF1(α-Cy5)を高塩濃度環境下で混合してサブユニットの交換反応を起こすことで、F1(α-Cy5/β-Cy3)を得る。このようにして得たF1(α-Cy5/β-Cy3)を用いて偏光FRET法を行う予定である。
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Research Products
(3 results)