2015 Fiscal Year Annual Research Report
分子内運動に着目したヒト多剤排出トランスポーターの輸送機構解明
Publicly Offered Research
Project Area | Novel measurement techniques for visualizing 'live' protein molecules at work |
Project/Area Number |
15H01638
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
木村 泰久 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (10415143)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 多剤排出トランスポーター / MDR1 / ABCトランスポーター / ABCタンパク質 / 能動輸送 / 高速AFM |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は多剤排出トランスポーターの機能を分子の動きを解析することで明らかにしようとするものである。研究初年度では高速AFMを用いて多剤排出トランスポーターの輸送に関連すると考えられる動きを捉えることに成功しており、研究の進捗は順調である。 ヒト多剤排出トランスポーター(MDR1, P-glycoprotein, ABCB1)はABCトランスポーターファミリーに属する輸送体でATP結合・加水分解に依存した能動輸送を行う。MDR1は様々な構造の疎水性化合物を輸送基質として認識することが可能であり、自然界に存在する様々な有毒化合物から生体を保護している。一方、MDR1は投与薬剤の体内動態に強く影響すると共に癌の多剤耐性化にも関与することから、創薬のターゲットとしても重要である。MDR1はATP結合・加水分解により構造を変化させ、輸送を行うと考えられるが、その動きを実際に捉えた研究はなく、輸送機構の詳細は不明である。 研究初年度には本領域が提供する金沢大学の高速AFM装置を用い、金沢大学の安藤教授のグループと共同で動き解析を行った。解析には好熱性紅藻由来のヒトMDR1ホモログタンパク質(CmABCB1)を用いた。MDR1は細胞質内に開いた内向き構造と細胞外に開いた外向き構造を交互に経由する事で輸送を達成すると予想されていたが、本解析の結果、CmABCB1の内向き構造の開き加減には複数の状態があり、ATPと輸送基質によってその複数の状態を行き来することが示唆された。これは結晶構造解析からは予想できない大きな動きであり、新規の構造変化を捉えることが出来たと考えている。また、MDR1と高い相同性を持つ脂質輸送体について、生化学的解析から基質取り込みゲートの存在を示唆する結果を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究初年度ではヒトMDR1のホモログタンパク質を用い、実際に動きを捉える研究を開始した。その結果、上記のように輸送に関連すると考えられる動きを捉えることに成功した。高速AFMで観察された動きは結晶構造から推測されていた動きよりもはるかに大きな動きであり、動作メカニズムの解明に向けて重要な知見が得られたと考えられる。 ヒトMDR1の構造の一部は緩んでおり、輸送基質はその緩んだ空間を通してタンパク質内部に取り込まれることが我々の研究により示唆された。そこで、多剤排出トランスポーターと高いホモロジーを持つ脂質輸送体(ABCB4)についても膜貫通ヘリックスを固定化する変異を導入し、輸送活性に与える影響を解析した。その結果、ABCB4にも輸送基質の取り込みゲートが存在することを示唆する結果を得つつある。興味深いことに、輸送基質取り込みゲートを形成する膜貫通ヘリックスはMDR1とABCB4で異なっていた。MDR1とABCB4は類似した基質認識部位を持つと考えられ、輸送基質取り込みゲートの違いが多剤排出トランスポーターと脂質輸送体という全く異なる機能を示す原因である可能性が考えられる。 研究初年度では当初予定していた解析を全て行うことができ、実際に輸送と関連すると思われる動きを捉えると言う有意義な結果を得ることが出来たことから、進捗状況は順調である。
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Strategy for Future Research Activity |
研究初年度では実際に動き解析を行うことに成功したが、この動きは結晶構造解析から予想されていたものよりもはるかに大きいものであった。この原因として我々の解析が界面活性剤中での動きを追跡していた事に起因する可能性がある。そこで2年度目の計画としてはナノディスク等、脂質2重膜に埋め込んだ状態で動き解析を行うことで、実際に生体内でどの程度動くのかを明らかにしたい。また、研究初年度には熱安定性が高く、観察に適したホモログタンパク質を用いて解析を行ったが、2年度目にはヒトのタンパク質についても解析を行い、ホモログタンパク質から得られた知見がヒトのタンパク質に適応できるかも検討したい。また、脂質輸送体の基質取り込みゲートの解析においては精製系を構築し、再構成系での活性を評価することでより詳細な解析を行う計画である。
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