2015 Fiscal Year Annual Research Report
疾患動物の運動機能回復の計測・解析に基づくシナジーの構成機序の解明
Publicly Offered Research
Project Area | Understanding brain plasticity on body representations to promote their adaptive functions |
Project/Area Number |
15H01660
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Research Institution | The University of Electro-Communications |
Principal Investigator |
舩戸 徹郎 電気通信大学, 情報理工学(系)研究科, 助教 (40512869)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 筋シナジー / 姿勢制御 / 運動制御 / 神経疾患 |
Outline of Annual Research Achievements |
ヒトや動物が歩行や直立などの全身運動を行うとき、複数の関節や筋を協調して動かす協調関係(シナジー) が見られる。このような運動中に観察される運動要素の協調関係は、動作生成において冗長な身体を動かすための低次元表現となっており、脳内身体表現を反映していると考えられる。本研究では、(1)直立中の姿勢制御におけるシナジーと小脳疾患に伴う変化、(2)脳梗塞に伴う歩行中の筋シナジーの変化と回復に伴う変化を詳しく調べることで、シナジーがどのように構成され、運動機能とどのように結びついているのかについての知見を得る。さらに、(3)臨床現場でのシナジー解析環境を開発することで、シナジーを介したリハビリテーション手法の構築を目指す。それぞれの研究について、以下のような研究成果を得た。 (1)ラットの運動学シナジーと姿勢制御系の定量評価:本年度は、健常ラットを対象として、直立及び歩行中のシナジーの解析と力学モデルの構築を行った。ラットに2足直立させ、関節間の協調関係(運動学シナジー)を解析することで、ラットの姿勢制御において、重心と体幹を中心に各関節を協調させる、ヒトと同様の制御則が使われていることを示した。 (2)直立姿勢制御モデルの構築とラットの制御系の評価:Photothrombosis 法による虚血性脳梗塞を持つラットの作成準備と、健常ラットの歩行の筋シナジー解析を行った。これによって、脳梗塞に伴う筋シナジーの変化を、脳梗塞ラットの歩行運動の筋シナジー解析によって調べるための実験環境が構築された。 (3)筋シナジー解析装置と無痛無汗症患者の計測環境の構築:臨床現場で使用できるシナジー解析機器の開発を行い、無痛無汗症患者を対象とした運動解析環境を構築した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度の研究として、(1)疾患動物の実験を行うための実験環境の構築、(2)動物の歩行・直立動作の運動実験及びデータ解析、(3)力学解析を挙げていた。これらのうち、(1)実験環境の構築に関しては、Photothrombosis 法によって脳梗塞を生じる装置を導入することで、対象とする運動野に対して、想定していた以上の空間解像度で解析ができるようになった。また、臨床現場で用いることのできるシナジー解析装置の開発が完了し、筋電の計測を行いながら、リアルタイムで筋シナジーの解析を行うことが可能になった。開発した解析装置は東京大学病院、東北大学、国立精神神経医療研究センターなどの研究機関に導入し、実際に無痛無汗症・脳梗塞・パーキンソン病などの患者に対する解析が開始された。 (2)については、小脳疾患のラットの直立運動のキネマティクスの計測、及び歩行運動の筋電の計測を行った。直立運動においてモーションキャプチャによって動作を解析する手法を確立し、疾患に伴う関節間協調の変化が解析できるようになった。筋活動においては、筋シナジーの解析が可能になり、また解析した筋シナジーが過去の研究と比較して妥当な筋シナジーが得られることが確認できた。以上の研究から、疾患に伴うシナジーの変化を定量的に評価することができるようになった。 (3)力学解析として、ヒトの直立運動を元に構築した力学モデルを用いて、ラットの直立中の姿勢制御系の同定を行った。小脳疾患を持つラット健常ラットにおいて、同じ身体モデル(関節間協調)を持つモデルが、ほとんど同じ制御ゲインを生じることを示し、小脳疾患による運動の変化が、単に制御ゲインの変化ではなく、関節間協調の低下のような、身体モデルの変化を生じている可能性を明らかにしている。 このように、実験環境・計測及び運動解析・力学解析ともに順調に研究が進んでいると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度までに、脳梗塞を持つラットの構築と筋シナジー解析が行えるようになり、また臨床現場で用いることのできるシナジー解析装置の構築と疾患患者の計測準備が整った。今後の研究として、以上の設備を用いて、疾患に伴う運動機能と筋シナジーの関係を明らかにし、筋シナジーに基づく機能回復の構築を目指す。具体的に以下の様な研究を行う。 脳梗塞ラットの歩行実験については、以下の研究を計画している。(1)脳梗塞を持つラットの歩行運動の計測を行い、筋シナジーがどのように変化を調べる。(2)脳梗塞後の時間に従って、筋シナジーがどのように変化するかを調べる。(3)脳梗塞を生じた部位の周辺を刺激したときの運動が、筋シナジーの変化とどのように関係しているかを明らかにする。これによって、運動野における疾患と筋シナジーの関係を明らかにする。 神経疾患患者のシナジー解析に関しては、以下の研究を計画している。(1)無痛無汗症患者の運動計測を行い、健常者との筋シナジーの違いを調べる。(2)音によって外部から感覚情報を与えることで、筋シナジーがどのように変化するかを調べる。これによって、筋シナジーの構成にあたって、感覚情報がどのように影響するか、また、外部から感覚情報を与えることで筋シナジーを調整できるかを明らかにする。さらに力学解析によって、(3)筋シナジーのタイミングと、接地床圧力の関係を明らかにし、筋シナジーのタイミング調整が無痛無汗症患者の歩行に有効に働くかを明らかにする。これによって、音による感覚情報がリハビリテーションに有効に働くかを明らかにする。
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Research Products
(24 results)