2016 Fiscal Year Annual Research Report
新興国における主観的厚生指標の経済学的分析
Publicly Offered Research
Project Area | Studying Interactions between Politics and Economic Development in Emerging Countries |
Project/Area Number |
16H00739
|
Research Institution | Institute of Developing Economies, Japan External Trade Organization |
Principal Investigator |
會田 剛史 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所, 開発研究センターミクロ経済分析研究グループ, 研究員 (40772645)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 主観的厚生指標 / ネットワーク / 貧困指標 / 行動経済学 / ミクロ計量経済学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、新興国における主観的厚生指標について、個人・家計レベルのデータを用いて、(1)地理的ネットワークの効果やそれを通じた相互作用、(2)主観的厚生指標とその他の貧困指標との相互関係、(3)主観的厚生指標と行動経済学的パラメータとの関係性の分析を目標とする。本年度の各課題についての研究実績は、以下の通りである。 (1)については、主観的厚生指標の地理的ネットワークに関する分析を実施するために、既存研究の広範なサーベイを行なった。また、南アフリカにおける家計調査のNational Income Dynamics Survey (NIDS)データを用い、地図上に主観的厚生指標をプロットすることにより、同指標の空間的パターンを可視化した。このことにより、別地域における既存研究の結果同様、主観的厚生に空間的な不均衡があることを確認した。 (2)については、代表的な貧困指標である所得貧困・多次元貧困指標と主観的厚生指標との間の相互関係を分析した。分析に際しては、主観的厚生指標の分析の際に問題となる指標の序数性と個人間比較の可能性を考慮するために、最新の計量経済学的手法を用いた。研究成果については、国内のセミナーにおいて発表することにより、フィードバックを得た。 (3)については、主観的厚生の研究において近年注目されている要求水準(aspiration)に注目した研究を実施した。経済学だけでなく、心理学を含めた広範な文献サーベイを行い、要求水準を計測するための経済実験をデザインした。さらに、その妥当性を検証するために、政策研究大学院大学の学生を被験者とするパイロット実験を行なった。その成果を踏まえて実験デザインを改良し、スリランカ農村地域においてフィールド実験を実施した。このフィールド実験は、現地における研究協力者の都合により、2017年度に繰り越して実施したものである。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2016年度に実施を予定していた経済実験については、現地研究協力者の都合により2017年度に繰り越したために、主観的厚生指標と行動経済学的パラメータとの関係性に関する研究に大幅な遅れが生じた。一方、所得貧困・多次元貧困指標と主観的厚生指標との間の相互関係に関する研究については、当初の予定よりも大きな進展が見られ、暫定的な研究成果を発表できる段階になった。
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度の成果に基づき、次年度も引き続き上記3つの課題を中心に研究を進める予定である。各課題における具体的な目標は以下の通りである。 (1)の地理的ネットワークの効果やそれを通じた相互作用の研究については、今年度の分析により明らかになった主観的厚生の地理的不均衡を解明するための計量経済学的分析を行う。既存研究では、このような地域間の不均衡を各地域に固有の制度的理由に求めるものが多い。一方、本研究においては、個人間の相互依存関係に注目し、主観的厚生指標の空間計量経済学的分析を行うことを目標とする。 (2)の主観的厚生指標とその他の貧困指標との相互関係の研究については、今年度のセミナー発表等で得られたコメントを元に、分析の精緻化を行う。また、引き続き学会・セミナー等で発表を行うことにより、多くのフィードバックを得るとともに、最終的には論文を執筆する。執筆する論文については、ディスカッションペーパー等の形で公開するとともに、国際的学術雑誌へ投稿することを目標とする。 (3)主観的厚生指標と行動経済学的パラメータとの関係性の研究については、次年度に繰り越して実施した経済実験のデータを分析可能な形にクリーニングし、データの分析を開始するところまでを目標とする。この実験は近年注目される要求水準という概念を経済実験によって捉える先進的な試みであり、最終的には要求水準と主観的・客観的厚生指標との相互関係に関する論文を執筆し、国際的学術雑誌に投稿することを目指す。
|