2016 Fiscal Year Annual Research Report
微生物集団が示す特異な動的秩序形成機構の解明とその制御
Publicly Offered Research
Project Area | Dynamical ordering of biomolecular systems for creation of integrated functions |
Project/Area Number |
16H00765
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
山本 量一 京都大学, 工学研究科, 教授 (10263401)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | シミュレーション / 微生物 / 細胞 / 集団運動 |
Outline of Annual Research Achievements |
水中を泳動する微生物は,紐状の鞭毛や表面に生えた繊毛によって水中を自己推進するが,これは船や飛行機などの人工物はもちろん,魚類や昆虫などとも全く異なるメカニズムに基づいている.近年,泳動する微生物に対する力学的・物理学的アプローチの研究が国際的に大きな注目を集めているが,ようやく微生物の単体運動に関する理解に手が届き始めたところに過ぎない.非平衡ダイナミクスの実例としてより重要で,現象の変化にも富んだそれらの集団運動については,理解が全く進んでいないのが現状である.これはこの分野の理論的手法が未熟であることに主な原因があり,ソフトマターで成功した新しい手法を導入することで大きなブレークスルーが期待できる.本研究の平成28年度実施分として以下の成果を得ることに成功した. バクテリアに代表される自己泳動粒子は,純粋に理学的な興味の対象であるのみならず,バイオフィルム形成過程の理解やドラッグデリバリーシステムへの応用といった観点から工学・医学等様々な分野でも興味を集めている.本研究では,自走粒子と周囲の流体の運動を同時に直接計算するSmoothedProfile(SP)法を用い,流体力学的にのみ相互作用する球形のモデル微生物が示す非常に興味深い集団運動について詳細に調べた.その結果,1)流体を介して相互作用するマイクロスイマーに対して直接数値計算を行う手法を開発し,2)非自明な集団運動の発現を見出すとともに,3)コロイド分散系の直接数値計算を行うシミュレーター(KAPSEL)に新しい機能として実装して一般公開することに成功した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は,水中で泳動する微生物を大幅に簡略化したモデル微生物のモデリングを主に行うべく,押し出し型(Pusher)と引っ張り型(Puller)の違いを反映できる最も簡単なモデルとしてスクワマー(Squirmer)を採用し,流体力学をフルに考慮した直接数値計算を実現す計画であった.複数のスクワマーに対するシミュレーションで今回のような流体と粒子の連成問題を直接解く方法は初めての試みであった.平成28年12月,シミュレーションモデルを開発するため,条件設定のための対象モデリングの数値計算を実行したところ,予想に反して対象モデリングと実験との比較においてモデルパラメータの設定方法に問題があることが判明し,条件設定が予想以上に困難であることが判明した.その結果,条件設定を6ヶ月延期したうえで数値計算を実施しする必要が生じた.その後,平成29年度に必要な検討を追加実施することでこの遅れを取り戻し,流体を介して相互作用するマイクロスイマーに対して直接数値計算を行う手法を開発し,非自明な集団運動の発現を見出すとともに,コロイド分散系の直接数値計算を行うシミュレーター(KAPSEL)に新しい機能として実装して一般公開した.これらの成果によって,研究は順調に進展している.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は「微生物集団が示す特異なダイナミクスの解明とそのハンドリング機構の基礎付け」を目的とするものであり,平成28年度実施計画分として,すでに想定された成果を得ている.平成29年度は,これまでに開発した直接数値計算法を用いて、各種モデル微生物・細胞のシミュレーションを実施する計画である.特に,細胞の大規模な集団運動のメカニズムは大きな謎となっており,生物学・医学・物理学などの様々な分野において研究者の興味を引きつけている.一般的に,細胞はその内部で起こる複雑な生化学プロセスを利用して周りの状況に応答する.例えば,複数の細胞が接触するような状況が発生すると,お互いに避けるような運動が応答として得られる.本研究では,非常に簡単な細胞モデルを用いて,実際の細胞集団が示す種々の複雑な集団運動の再現を目指す.
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Research Products
(15 results)