2016 Fiscal Year Annual Research Report
Multiscale modeling of the dynamics of active filaments
Publicly Offered Research
Project Area | Synergy of Fluctuation and Structure:Foundation of Universal Laws in Nonequilibrium Systems |
Project/Area Number |
16H00792
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
内田 就也 東北大学, 理学研究科, 助教 (10344649)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 生物物理 / 非平衡系 / パターン形成 |
Outline of Annual Research Achievements |
べん毛、繊毛、および自己推進フィラメントのダイナミクスに関して以下の研究成果を得た。 1.バクテリアカーペットの新しいモデルとして、べん毛の3次元的な配向自由度、有限長効果およびべん毛基部の弾性を取り入れたモデルを構築して数値計算を行い、3次元流動場を解析した。その結果、有限長効果によってべん毛が基盤に平行になる効果と基部弾性により初期配向が記憶される効果の競合によって配向ドメインのサイズが決定されることが明らかになった。(国立中央大学(台湾)の Wei-Yen Woon 氏らとの共同研究) 2.バクテリア乱流中のコロイド粒子の運動に関して、連続体モデルによる数値シミュレーションを進め、粒子の回転自由度を取り入れた解析を行った。その結果、粒子間に渦を介した有効引力が働いて粒子が凝集することを見出した。(デュッセルドルフ大学の Hartmut Loewen氏との共同研究) 3.アーキア(古細菌)のべん毛を用いた遊泳に関しては、先に得られていたモデルの解析を進め、べん毛の傾きに起因する歳差運動の傾き角依存性やエネルギー効率を評価することができた。また追加実験によりべん毛のステップ回転の詳細を解明した。(学習院大学の木下佳明氏らとの共同研究) 4.繊毛のビーティング運動に関しては、曲げ弾性および周囲の流体との相互作用を取り入れた3次元連続体モデルを構築した。この新しいモデルを用いて、実験で得られた繊毛の座標データから曲げ弾性率の再評価を行った。(学習院大学の加藤孝信氏らとの共同研究) 5.自己推進フィラメントのモデルとして屈曲弾性および排除体積効果を取り入れた基本モデルを構築した。このモデルを用いて界面に接着したバクテリアの集団運動の数値シミュレーションを行い、実験で見られている集団ウェービングパターンを再現した。(国立中央大学(台湾)の Chien-Jung Lo 氏との共同研究)
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
界面に接着したバクテリアべん毛に関しては当初の予定を超えて2種類の新しいモデルを構築することができた。すなわち低密度領域で重要となる流体効果(上記研究実績の1.)と高密度領域で支配的となる排除体積効果(実績5.)について、それぞれ実験グループの協力を得て解析を進めることができた。また自己推進フィラメントに関しては、自己駆動力と曲げ弾性、排除体積効果を取り入れた基本モデルを予定通り構築することができた。一方でこのモデルの最初の応用対象としては、当初予定していた遊泳バクテリアではなく、界面に接着したバクテリアを選んだ。その結果、自己駆動力と曲げ弾性の拮抗による集団ウェービング運動の発生を再現することができた(実績5.)。ここでは2つの研究課題が融合して発展したことになる。遊泳バクテリアに関しては予備的な数値計算を行ったものの高密度での集団運動相を再現するには至っていない。アーキアのべん毛を用いた遊泳(実績3.)に関しては当初計画にはなかったが、理論および実験の両面において以前の結果を質的に大きく改善する結果が新しく得られたため当該分野のトップジャーナルに論文を出版することができた。バクテリア乱流中のコロイド粒子(実績2.)に関しても以前の研究の継続ではあるが、理論モデルを改善して粒子の回転自由度を考慮することでに乱流が媒介するコロイド粒子の凝集という新しい現象を予測することができた。繊毛に関しては曲げ弾性と流体効果を取り入れたモデル(実績4.)を構築したが、ダイニンの濃度場まではモデル化することができていない。その主な原因は共同研究者による実験スキームの見直しを受けてデータ解析に時間を要しているためである。このように当初の年次計画を超えて進んだ課題と当初計画より遅れている課題が混在しているが、全体としてはおおむね順調に進んでいると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
自己推進フィラメントに関しては前年度に開発した基本モデルを用いて、流体中の遊泳および平面基板上の這行の2種類の運動に応用する。 (1)流体中を遊泳する自己推進フィラメント 遊泳バクテリアの境界壁近傍での運動を理解するため、べん毛の回転によるトルクを既存の自己推進ロッドモデルに追加して数値シミュレーションを行う。国立中央大学(台湾)の Wei-Yen Woon 氏らによる実験結果と比較して、パラメータを決定した上で、実験で見られている回転運動の再現を行う。またより粗視化されたモデルとして、遊泳体を力の双極子として表現するカイラル双極子モデルを用いて、境界壁近傍での遊泳速度、角速度、流れ場の構造をフィラメントモデルと比較し、各モデル間の定量的な関係を解析する。 (2)基板上に拘束された自己推進フィラメント アクトミオシンアッセイなどに見られる分子モーターが散布されたアクティブな基板とフィラメントの相互作用のモデル化を行う。分子モーターとフィラメントの結合力および駆動力のモデルを実験結果との比較にもとづいて構築しパラメータ決定を行う。フィラメントのアスペクト比、屈曲長、分子モーターおよびフィラメントの数密度をパラメータとして、動的な集団運動パターンの解析を行う。特に排除体積相互作用による整列効果に着目して、アクティブ液晶相など方向秩序を持ったパターンに関する実験結果の再現を行う。 繊毛に関しては3次元ビーティング運動のモデルを完成させ、繊毛間の相互作用と集団運動を解析する。ビーティング運動については引き続き実験結果との定量的比較を進めるが、実験の進捗状況によってはダイニンの濃度場を有効的に取り入れた現象論的モデルへの変更を行い、相互作用の解析にシフトする。相互作用としては流体効果および排除体積効果を取り入れて、集団運動(メタクロナル波)の数値シミュレーションを行う。
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