2016 Fiscal Year Annual Research Report
バクテリア巨大渦状運動の極性形成メカニズム
Publicly Offered Research
Project Area | Synergy of Fluctuation and Structure:Foundation of Universal Laws in Nonequilibrium Systems |
Project/Area Number |
16H00808
|
Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
西坂 崇之 学習院大学, 理学部, 教授 (40359112)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 滑走運動 / 線毛 / 集団運動 |
Outline of Annual Research Achievements |
ミキソコッカスのようなバクテリアで見られる、複数の個体の固まりが方向性を持って動くsocial motility(S-motility)は、特徴的な接着装置であるIV型線毛(type IV pili)によって実現される。このpiliのダイナミクスには膜内外のさまざまなタンパク質が関わるものの、個々の役割や詳細な機能については、まだ解明が進んでいないというのが現状である。本課題では、独自の光学顕微鏡を駆使することによって、piliの活性がどのように制御され、そして方向性のある運動を引き起こすのかについて、徹底的な可視化を進めることで明らかにする。 平成28年度においては、シネコシスティスの走光性に注目し、IV型線毛の活性化と運動がどのように関わるのかを明らかにするための実験系の構築を行った。忌避の波長についてサンプルチャンバーの下面と側面から独立に照射できる顕微鏡のシステムを完成させ、運動に影響を与えない微弱光で細胞の位置の変化を高精度で測定した。ここで得られた結果はすでに論文として取りまとめ、原著論文として米アカデミー紀要に既に掲載が決まっている。 平行して、遊泳する微生物であるハロバクテリアの運動と、運動装置の動態を精密に測定する技術の開発を行った。ハロバクテリアはアーキアに属し、アーキアの運動において分子メカニズム解明を目指した研究はほとんど進んでいない。アーキアべん毛(アーキアラ)の形状、回転数、回転方向のトルクといった全てのパラメータを求め、これらの知見は原著論文としてNature Microbiologyに発表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本課題は申請段階では、フラボバクテリウム・ジョンソニエという一種類の桿菌を研究対象にしてスタートした。それが現在においては、シネコシスティス、ハロバクテリウム、サーマス・サーモフィラスといったさまざまな研究対象に派生し、次々に一流科学誌に原著論文として発表されている。卓越した顕微鏡技術が細菌学に応用され、生物物理学として結実する新しい研究の方向性が本課題を通じて生まれつつある。
|
Strategy for Future Research Activity |
IV型線毛によって運動を実現するシネコシスティスおよびサーマス・サーモフィラスをモデル生物とし、1個体の運動を定量的に解析する。走光性という特徴に着目し、変異株を利用しながら制御の仕組みについて調べ、未踏の領域である「トゥイチング運動の制御機構」に関する本質的な知見を得る。また繊維状のタンパク質であるPilAのダイナミクスについては、先行研究においても、実験条件の難しさから可視化は実現されていない。蛍光蛋白や微小粒子などを通じて、PilAの伸長と短縮を画像化し、その動態について詳細を明らかにしていく。当研究室には、これまでの様々な1分子生物物理学の研究課題を通じて、光ピンセットや3次元位置検出顕微鏡といった強力なリソース技術が存在する。これらをバクテリアの研究に応用することで、一本の線毛が発生する力、さらには短縮に伴うと予想される回転運動の検出にも挑戦する。これら高精度顕微計測技術という独自の切り口を通じて、集団寸動につながっている、線毛のダイナミクスをもっとも基礎的なレベルから解明していく。
|
Research Products
(9 results)