2016 Fiscal Year Annual Research Report
光の射す方へ:微生物の動線をつくる流体力学
Publicly Offered Research
Project Area | Synergy of Fluctuation and Structure:Foundation of Universal Laws in Nonequilibrium Systems |
Project/Area Number |
16H00815
|
Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
和田 浩史 立命館大学, 理工学部, 准教授 (50456753)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 生物流体力学 / 走光性 / 緑藻類 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目標は、緑藻類ボルボックスが光走性を効果的に成し遂げる生物物理学的なメカニズムを、理論的なアプローチを実験結果と組み合わせて明らかにすることである。採択された研究課題では、初年時の研究計画として、一個体の光刺激への応答のしくみ(光刺激のセンシング、情報処理、鞭毛運動の制御、コロニーの旋回運動、という一連の動作がどうやってうまくいくのか)を調べることを提案していた。しかし、課題実施途中に、種類の異なるボルボックスを用いた先行研究(K. Drescher et al, PNAS 2010)において、光センシングからコロニーの旋回運動にいたる一連の動作の仕組みと、そこにみいだされるある種の「最適化の原理」が、ひととおり議論されている、ということが判明した。この先行研究は汎用性のある概念を提案しており、種が異なるとはいえ、我々の扱う系にも広く当てはまるところが多い。とはいえ、そこで提唱されているモデルの枠組みだけでは、光刺激がないときの運動や集団の応答特性は説明できない。 そこで、当初の研究計画の枠組みでは発展的な課題と位置づけていた「個体の応答特性のゆらぎと集団運動の関係」に、今年度中から着手している。具体的には、光源付近に集まるボルボックス集団の密度分布を、理論、実験の両面から調べている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「研究実績の概要」において触れたように、当初、採択された研究課題では、初年時の研究計画として「一個体の光刺激への応答のしくみを詳細に調べること」を掲げていた。しかし、課題実施途中に、種類の異なるボルボックスを用いた先行研究(K. Drescher et al, PNAS 2010)において、光センシングからコロニーの旋回運動にいたる一連の動作の仕組みと、そこにみいだされるある種の「最適化の原理」が、ひととおり議論されている、ということが判明した。計画の提案時点において、先行研究のリサーチが不足であったことは、反省点として重く受け止める。この先行研究は走光性にかんして汎用性のある概念を提案しており、種が異なるとはいえ、我々の扱う系にも広く当てはまるところが多い。 予期しなかったこのような状況のため、新しい成果を得るという意味では、初年度の進捗は当初期待したほどではない、と結論せざるを得ない。
|
Strategy for Future Research Activity |
「研究実績の概要」で述べたように、当初の研究計画の枠組みでは発展的な課題と位置づけていた「個体の応答特性のゆらぎと集団運動の関係」に、初年度から着手している。具体的には、我々は光応答の集団運動に関する最近の実験結果 (M. Ozaki and Y. Murayama, Curr. Phys. Chem.(2015)) に注目している。これは連携研究者の村山准教授(東京農工大)のグループによる先行研究である。この実験結果によると、相対光強度を増すとともに、走行性を示す集団としての速度(平均速度)が比例して増加する。しかしながら、この集団的ふるまいの理論的な解釈は現在まで定まっていない。我々は、この観測結果は「強度差の増大とともに、光の方向に向かって動く個体の数が増える」ためである、という仮説を提案している。実際、個体の速度自体は(多少のばらつきはあるとしても)ほぼ一定であり、環境の光条件によって大きく変化しない。つまり、個々のボルボックスの光への感受性にはもともとばらつきがあり、その結果として集団の線形応答性が創発するのではないか、と我々は考えている。 今後は、以上のようなシナリオを、物理学的なアプローチで定量化しようとしている。 具体的には、まず、光源付近に集まるボルボックス集団の密度分布を、理論、実験の両面から調べている。
|
Research Products
(4 results)