2016 Fiscal Year Annual Research Report
トランスポータ分子の柔らかさが鍵を握る多剤認識メカニズムの解明と阻害剤設計の基礎
Publicly Offered Research
Project Area | Science on Function of Soft Molecular Systems by Cooperation of Theory and Experiment |
Project/Area Number |
16H00825
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
櫻井 実 東京工業大学, バイオ研究基盤支援総合センター, 教授 (50162342)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 多剤認識 / トランスポーター / 分子シミュレーション / 転写因子 / ATP |
Outline of Annual Research Achievements |
1) 多剤認識転写因子LmrRは多様な薬剤分子を認識・結合し、その結果DNAから解離し下流の多剤排出トランスポーターを発現させる。本研究では、分子動力学シミュレーションと3D-RISM計算を連成した計算化学カロリメトリーの方法により次の結果を得た。LmrRは1つの基質結合サイトを柔軟に構造変化させることで複数種の薬剤分子を認識していること、またその過程がエントロピー駆動であることが判明した。興味あることに、LmrRでは薬剤分子の結合に伴いタンパク質の揺らぎが増加しており、これが構造エントロピーの増加となって薬剤結合に寄与していることが判明した。 さらに、薬剤分子との相互作用は、結合サイトから距離的に離れたDNA結合サイトの揺らぎの増加を引き起こす(アロステリー効果)ことを明らかにし、DNAから解離に関し新規な分子モデルを提案した。 2) Martini力場を用いた粗視化シミュレーションをABCトランスポーターの一種であるCFTRに適用した。その結果、ヌクレオチド結合ドメインへのATPの結合によって内向き構造から外向き構造への構造転移が起こることを実証した。また、この構造転移の結果、タンパク質内部にporeが形成され、その中をCl-イオンが移動する様子も観測できた。 3)マルトーストランスポーターのATP加水分解反応のメカニズムをQMMM metadynamics計算により調べた。その結果、この反応はdissociativeモデルに従って起こり、lytic waterからプロトンを引き抜く触媒塩基はGlu159であることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
多剤認識転写因子LmrRの薬剤認識機構に関しては、ほぼ当初の計画通り進行し、この転写因子がエントロピー駆動で基質を取り込むメカニズムを解明できた。更に、基質取り込みによりDNAとの結合作用も変化することを示唆する結果も得られ、この部分は想定以上の成果である。 以下の2つは当初計画になかった想定以上の成果である。 1) 粗視化分子動力学シミュレーションをABCトランスポーターの一種であるCFTRに適用し、non-biasシミュレーションではおそらく初めてinward-facing構造からoutward-facing構造への構造転移を再現することに成功した。これによって、ATPの結合自由エネルギーだけでタンパク質のpower strokeが駆動されることを実証した。 2) ABCトランスポーター(マルトーストランスポーター)内で起こるATPの加水分解のメカニズムを反応の自由エネルギー曲線を求めることによって解明した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度導入した粗視化分子動力学シミュレーションのプロトコールを更に改良・発展させその有効性を確認すると伴に、適用限界をも明確にする。そのため、まずはCFTR以外のABCトランスポーターやmajor facilitator superfamilyのトランスポーターに適用し、それらの構造柔軟性と機能発現の関係を調べる。具体的には、マルトーストランスポーターをとりあげる。このトランスポーターのocluded構造からoutward-facing構造への構造転移、マルトースの輸送経路およびATP加水分解後の構造転移などを調べる。 多剤認識のメカニズム研究に関しては、転写因子以外にも対象とする系を拡張する。たとえば、チオレドキシンのターゲットタンパク質認識や亜鉛センサーCzrAなどの基質認識などの実験的にエントロピー駆動であるといわれている系に対し、計算化学カロリメトリーの方法を適用し、その基質認識メカニズムを明らかにする。
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