2016 Fiscal Year Annual Research Report
柔らかな細孔表面をもつタンパク質結晶設計
Publicly Offered Research
Project Area | Science on Function of Soft Molecular Systems by Cooperation of Theory and Experiment |
Project/Area Number |
16H00827
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
安部 聡 東京工業大学, 生命理工学院, 助教 (40508595)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 多角体 / タンパク質結晶 / 細胞内結晶 / 固体触媒 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、タンパク質結晶の固い骨格構造の中にアミノ酸欠損により柔らかな表面構造をもつ細孔空間を構築し、金属錯体複合化による固体触媒を創製することを目的としている。 平成28年度は、細胞内タンパク質結晶である多角体を用いて、タンパク質工学により結晶内細孔空間構築のための分子設計を行った。野生型の結晶構造をベースに分子界面に存在するアミノ酸残基を欠損した変異体を作成した。具体的には、多角体L4ループに存在する1-3つのアミノ酸残基を欠損した変異体を作成し、昆虫細胞内で結晶を作成した。 作成した変異体の構造解析をSPring-8の微小結晶用のビームラインで行った。その結果、全ての変異体において構造を決定することができ、野生型と同じパッキング構造を維持したまま結晶内部の細孔を拡大した。また、アミノ酸を3つ欠損した変異体では、タンパク質間の相互作用が弱くなっており、高い柔軟性をもつ空間を構築することができた。さらに、結晶を細胞から取り出すことなく、細胞のままの構造解析にも成功しており、簡便、迅速な構造解析につながると考える。 作成した変異体結晶へのin vitro、細胞内での蛍光色素の内包を検討した。その結果、アミノ酸を欠損した変異体では、アニオン性の蛍光色素の取り込み量や速度が野生型より大きいことがわかり、双性イオンやカチオン性の色素では、ほとんど取り込み量に変化がないことがわかった。さらに、細胞内においても野生型ではみられないアニオン性色素であるフルオレセインの吸着が変異体結晶において観察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、タンパク質結晶エンジニアリングにより結晶内のアミノ酸側鎖を欠損した変異体の作成と構造解析に成功した。本研究の目的は、結晶内の柔らかな空間を用いた金属錯体固定化による固体触媒の構築であり、本年度作成した変異体は外来分子の拡散や固定化において野生型と比較して優れており、固体触媒のためのテンプレート分子を作成することができた。さらに、変異体の結晶構造もあきらかにしており、結晶データからアミノ酸を欠損することにより結晶内に柔らかな空間を構築できたことを示してる。したがって、おおむね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
H29年度は、H28年度に作成した多角体変異体の柔らかな分子空間を触媒反応場に用いる。具体的には、PdやRu錯体を結晶内部に固定化する。これらの金属錯体は、タンパク質内部でシステインやヒスチジンに配位可能なため、作成した変異体の内部に金属結合部位を導入する。金属錯体の配位構造をSPring-8の微小結晶用のビームラインを用いた構造解析により明らかにする。野生型と変異体結晶について金属結合やアミノ酸の構造を比較し、金属結合におけるアミノ酸欠損の効果を見積もる。 触媒反応評価としてアリルカルバイトの脱保護反応を行う。結晶内触媒反応の進行を容易に評価できるように反応生成物が蛍光を発する反応系を用い、共焦点顕微鏡観察により反応条件のスクリーニングを行う。また、Pd触媒による鈴木宮浦カップリング反応を行い、不斉反応を検討し、結晶内環境を評価する。また、基質のアクセスや活性を向上させるための分子デザインを結晶構造を基にした計算化学とアミノ酸置換により進め、タンパク質結晶内細孔空間での触媒反応システムを確立する。
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