2016 Fiscal Year Annual Research Report
超高速分光による原子層物質の非平衡キャリアに関する研究
Publicly Offered Research
Project Area | Science of Atomic Layer Systems |
Project/Area Number |
16H00908
|
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
小山 剛史 名古屋大学, 工学研究科, 准教授 (20509070)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 原子層 / ナノ材料 / 光物性 |
Outline of Annual Research Achievements |
グラフェンは二次元的な原子層物質であることから、その光キャリア緩和は基板や周辺雰囲気の影響を強く受ける。そのため、周辺環境(基板や雰囲気、温度など)を制御することにより、光学応答の高速化が期待できる。一方で、近年、価電子帯頂および伝導帯底におけるバレー自由度を活用したバレートロニクスが提案されている。このバレートロニクスの舞台として、グラフェンとは異なりエネルギーギャップをもつ単層遷移金属ダイカルコゲナイドが注目されている。この物質は直接遷移型半導体であり、円偏光をもつ光によって、バレー選択的なキャリア(励起子)生成が可能である。光パルスの時間幅は電気パルスのそれより数桁短くすることが可能であるから、信号の高速化も期待できる。
以上の背景のもと、本研究の目的は、1)様々な周辺環境にあるグラフェンの光励起状態の緩和過程を観測し、周辺環境の制御による光学応答の高速化を調べること、2)遷移金属ダイカルコゲナイドのキャリア(励起子)ダイナミクスを調べ、超高速バレートロニクスに関する知見を得ることである。さらに、高強度光パルスや電場などの外場印加による光学応答の制御の可能性について探索する。
1)に関する本年度の実績は次の通りである。領域内研究者からSiC基板上にエピタキシャル成長した単層グラフェンを提供いただき、アップコンバージョン法に基づく時間分解発光測定を行った。得られた結果をこれまでに観測している石英基板上に転写された単層グラフェンの結果と比較した。キャリア-フォノン相互作用を考慮したキャリア冷却のモデル計算を行い、実験結果と比較した。これらの結果から、グラフェンのキャリアと基板のフォノンとの相互作用に関する知見を得た。 2)について、領域内研究者から単層二硫化モリブデンを提供いただき、ポンプ・プローブ法に基づく過渡吸収測定を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要に記述したように、本研究の目的を達成するために、様々な基板上のグラフェンの光学応答を時間分解測定する必要がある。これに対して、本年度において、SiC基板上エピタキシャル単層グラフェンの時間分解発光測定に成功しており、光キャリア緩和に対する基板の影響を定量的に扱うモデル計算も可能としている。一方、石英基板上転写単層グラフェンに対するポンプ・プローブ分光について、学術論文を発表した。
本研究では、遷移金属ダイカルコゲナイドのキャリア(励起子)ダイナミクスを調べることも目的としている。これに対し、単層二硫化モリブデンの過渡吸収測定を行っており、励起波長の選択およびノイズの軽減の必要があることがわかった。
以上の状況から、本研究はおおむね順調に進展していると評価した。
|
Strategy for Future Research Activity |
様々な基板上のグラフェンの光学応答に関する研究について、SiC基板上エピタキシャル二層グラフェンやバッファー層がないSiC基板上グラフェンなどの時間分解分光測定を検討する。光キャリア緩和に対する基板の影響をより詳細に検証していく。
遷移金属ダイカルコゲナイドの光学応答に関する研究について、使用するレーザー光源の出力の広帯域化、安定化を検討する。ノイズを軽減するため、光学系の改善も検討する。実験を通じてバレートロニクスに関する知見を得るだけでなく、二次元励起子の物理について研究を進めていく。
|