2016 Fiscal Year Annual Research Report
Low-frequency Raman study of atomic layer materials
Publicly Offered Research
Project Area | Science of Atomic Layer Systems |
Project/Area Number |
16H00912
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
齊藤 結花 学習院大学, 理学部, 教授 (90373307)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 原子層物質 / 低振動数ラマン分光 / 光物性 / ナノ材料 |
Outline of Annual Research Achievements |
低振動数ラマン分光は、ラマンシフト100cm-1以下のレイリー線近傍の波数域をターゲットにしたラマン分光法である。分子の骨格振動を観測する高振動数ラマン分光と比較して、低振動数ラマン散乱は分子間相互作用などの弱い結合に由来する振動モードを観測するところに特徴がある。原子層物質の層間相互作用は、これらの材料の電子物性に本質的な役割を果たすため、層数や積層多形を評価するのみならず、基板の影響や対称性の低い積層構造を評価することが重要であると考えられる。このような低振動数領域の相互作用は計算によって予測することが難しいだけに、実験による検証が求められている。本研究では、トリプル分光器およびVolume Bragg Gratingを用いて起光532 nmの励起レーザー光を用いて低振動数ラマン測定を行った。原子層化合物は2次元的に広い面積を有しており、支持台としての基板が不可欠である。原子層物質と基板の相互作用については、転写した場合には顕著な相互作用は認められていないが、CVD成長させたものなど作製方法によっては大きな影響を持つことが、報告されている。 (1) SiCとグラフェンの相互作用:SiC上にCVD成長したグラフェンは、グラフェンのGバンドと2Dバンドが大きくシフトしていることが報告されており、基板との強い相互作用が指摘されている。本研究ではこの系を対象に低振動数ラマン分光測定を行なった結果、100 cm-1以下の波長域に顕著なピークは観測されなかった。従って従来の予想に反し、SiCとグラフェンの相互作用振動は存在しないか非常に微弱であることがわかった。 (2)サファイアとWS2: サファイア上に成長したWS2は、成長条件によって基盤の結晶軸に対して固定された配向があることが観測されている。この系についても現在、低振動数測定によって評価を行なっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者が学習院大学に異動になったため、実験条件を整えるのに時間を要した。しかし昨年12月以降、実験環境が整いはじめてから、安定した結果を得ることができるようになった。昨年9月の領域会議の際に多くの共同研究者に恵まれ、SiC上に成長したグラフェン(名古屋大学)、サファイア基盤上のWS2(九州大学)の提供を受けることができた。現在、一時間を超える長時間測定を可能にするため顕微鏡ステージ改良をすすめており、さらに質の高いデータを実験結果を得ることができるという感触を得ている。従って、本研究は概ね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度原子層物質であるWS2(サファイア基板)とグラフェン(SiC台)について基板との相互作用について測定を行なったところ、基板との相互作用を明確に理解するためには、ラマン分光測定の偏光の向きを制御する必要があることがわかった。薄膜からなる微細構造を顕微分光で評価するとき、試料を傾けることが困難であるため基板に平行な偏光成分(x,y)は測定できるが垂直成分(z)は観測することができない。原子層においては、面間距離が変化する方向の振動モードは観測できないことを意味する。ここで、顕微鏡の開口数(NA)が大きいとき空間光変調器を用いて入射偏光を制御することで、z偏光を有意に形成することができる。本年度は偏光操作技術を駆使して、面間相互作用を含めた全てのラマン振動モードを観測することに重点をおいて研究を推進する。 (1)xyz3軸完全偏光測定: 高NAの顕微分光光学系の特徴を生かして、入射偏光を制御することで、z方向を含めた純度の高いzyx3軸偏光測定を実現する。このような3軸測定から、面内方向のすべりやひねり、面間方向の結合エネルギー等に関して総括的な知見を得て、x線回折から得られる面間距離情報を補完する。 (2)顕微分光測定による試料の局所的な評価: 低振動数や偏光測定に加えて、顕微ラマン分光で試料の化学的な情報をイメージングする。不均一な試料とは、例えば欠陥が存在する場合や層構造が空間的に分布している場合である。 (3)ヘテロ構造の低振動数ラマン測定: 異なる2種類の原子層物質が、規則的に積層している系において、低振動数ラマン分光測定で面間相互作用を評価する。積層構造を変えていったとき、同種の原子層物質と類似の物性変化が観測されるか考察する。
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