2016 Fiscal Year Annual Research Report
光化学反応による星間分子の重水素濃集度の変化
Publicly Offered Research
Project Area | Evolution of molecules in space: from interstellar clouds to proto-planetary nebulae |
Project/Area Number |
16H00926
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
大場 康弘 北海道大学, 低温科学研究所, 助教 (00507535)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 化学進化 / 重水素濃集 / アミノ酸 / 光化学反応 / 高分解能質量分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
高真空反応チャンバー内に設置され,10ケルビンに冷却された反応基板上に,水を主成分とする混合ガス(水:メタノール:一酸化炭素:アンモニア=5:2:2:2)を蒸着させ,同時に真空紫外光を照射した。一定時間(~200h)経過後,ガスと紫外線の供給を停止し,基板温度を室温まで上昇させた。その後,反応基板上に残った不揮発性成分を水/メタノール混合溶媒で抽出した。抽出溶液を液体クロマトグラフーオービトラップ型高分解能質量分析計で分析し,不揮発性成分に含まれるアミノ酸の水素同位体組成を分析した。 メタノールとしてCH2DOHを用いたとき,グリシンやアラニンなど,比較的構造の単純なアミノ酸5種およびそれらの重水素置換体が検出された。重水素を一つ含む重水素一置換体の存在度は,重水素を含まない標準体の30-110%であった。この値は統計に重水素が分布したときの値(20-50%)より有意に高く,極低温での光化学反応および反応基板温度上昇中のプロセスが,重水素存在度を低下させることはないことを示す。 また,生成した不揮発性成分を酸加水分解すると,アミノ酸生成量が一桁増加した。これは多くの先行研究とよく一致する。一方,重水素存在度は酸加水分解によって変化しないもの(グリシン,サルコシン,セリン)と減少するもの(α,βアラニン)に分類することができた。これらは不揮発性成分中の比較的大きな構造をもつ有機物(バルク分子)中で,結合状態が異なるためだと推測される。 本研究では世界で初めて,極低温での光化学反応に伴う水素同位体分別を明らかにすることに成功した。本成果は,Astrophysical Journal Lettersにて公表された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
重水素を一つ含むメタノール(CH2DOH)を含む疑似星間塵氷の光化学反応で生成した5種のアミノ酸の水素同位体組成を測定し,それらの生成経路や生成にともなう水素同位体分別に関する知見を得ることに成功した。さらに本結果を天文学・宇宙物理学では評価の高いジャーナルの速報版として発表することができたため。
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Strategy for Future Research Activity |
蒸着するガスの成分のうち,用いる4種のガスの比率を固定したまま,メタノールの重水素置換体の種類を変化させて,同様の実験をおこなう。また,反応基板温度を80K程度に上昇させたときにどのような変化が見られるか,定量的に明らかにする。 メタノール以外の成分の重水素置換体を用いる実験をおこない,生成するアミノ酸の水素同位体組成にどのように影響するか,評価する。 メタノール標準体および複数種のメタノール重水素置換体を実際の星形成領域で観測されている割合で混合し,同様の実験をおこなって,生成するアミノ酸の水素同位体組成を解析する。 得られる成果を包括的に解析し,炭素質隕石中アミノ酸との関係性を議論する。
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Research Products
(12 results)