2016 Fiscal Year Annual Research Report
分子化学進化に及ぼすアモルファス氷の強誘電性効果
Publicly Offered Research
Project Area | Evolution of molecules in space: from interstellar clouds to proto-planetary nebulae |
Project/Area Number |
16H00937
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
杉本 敏樹 京都大学, 理学研究科, 助教 (00630782)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 強誘電氷 / アモルファス氷 / 結晶化 / 分子進化 / 和周波発生振動分光 / 赤外振動分光 / 昇温脱離法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,アモルファス氷の誘電物性に基づき,分子化学進化において氷が果たす触媒機能を明らかにすることを最終目的としている.星間分子雲や原子惑星系においては,アモルファス氷の構造が真空紫外光や熱により変化することが知られている.光・熱の履歴によりアモルファス氷の構造がどのように変化するのかを明らかにしておくことは,その表面で起こる分子進化のメカニズムを理解する上で極めて重要である.そこで,本年度はモデル基板上に作製した種々の膜厚(3分子層-50分子層)の強誘電アモルファス氷に対して昇温脱離法(TPD)と赤外分光法(IRAS)を同時に用いて熱的結晶化キネティクスを系統的に調べた.また,強誘電的配向秩序の熱的緩和を和周波発生振動分光(SFG)により評価した.
従来の研究では,ヘテロ基板上に作製したアモルファス物質の結晶化現象は界面における不均一核生成に起因するという考え方が定説であった.しかし,本研究でTPDとIRASの同時計測により氷表面と氷内部の結晶性を同時に評価した結果,モデル基板上のアモルファス氷の熱的結晶化は氷内部での均一核生成に起因することが明らかになった.その臨界温度は氷薄膜の厚さが十分に厚いTc~153 Kであったが,膜厚が薄い氷(約3分子層)ではTcが135 Kにまで低下することが判明した.氷の膜厚の増加に伴って水素結合ネットワークの組み換えが生じ,O-O間距離のバラつきが大きく柔軟性に富む水素結合構造からO-O間距離のバラつきが小さく柔軟性が低下する水素結合構造に変化している事を突き止めた. SFGで評価した強誘電的配向秩序の無秩序化は,上記のTcよりも20K以上も低温の温度領域から不可逆的に進行している事が明らかになった.これにより,強誘電アモルファス氷薄膜においては,水分子の回転自由度と並進自由度は独立して熱力学的に安定な構造に緩和していることが判明した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
従来の研究では,昇温脱離法(TPD)あるいは赤外分光法(IRAS)のどちらかを用いてアモルファス氷の結晶化過程が研究されてきた.それに対し本研究では,TPDとIRASを同時に計測できるように装置を改良したことで,基板上に成長させたアモルファス氷薄膜の結晶化が均一結晶核生成に起因して進行することを確固たる実験結果に基づいて突き止める事ができた.また,基板上に成長させたアモルファス氷薄膜が強誘電性を示し,その配向秩序が結晶化(並進秩序の形成)よりもはるかに低温で崩壊(常誘電化)するという事実を,和周波発生振動分光により世界に先駆けて明らかにすることができた.
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度に引き続き,得られた上記の知見を積極的に国際誌に投稿する.さらに今年度は,上記した熱的構造変化の知見に加えて真空紫外光照射に起因するアモルファス氷の構造変化を明らかにする.それらの知見を元に,氷の構造と誘電物性を制御し, NH3などの始原的な分子の吸着特性と分子化学進化について調べる.
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