2016 Fiscal Year Annual Research Report
強相関トポロジカル相のエッジ状態・低エネルギー励起
Publicly Offered Research
Project Area | Frontiers of materials science spun from topology |
Project/Area Number |
16H00985
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
桂 法称 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (80534594)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | トポロジカル相 / エッジ状態 / 超対称性 / 指数定理 |
Outline of Annual Research Achievements |
強相関トポロジカル相の低エネルギー準粒子励起について、理論的な観点から研究を行った。本年度の主な成果として、以下の3つに関するものが挙げられる。(1)捻り境界条件下でのKitaev模型におけるマヨラナ・ゼロモード、(2)超対称性の破れと南部・ゴールドストーンフェルミオン、(3)Hofstadterの蝶とCalabi-Yau幾何。
(1)1次元のトポロジカル超伝導体の模型に適切な捻り境界条件を課した場合に、端がないにも関わらずマヨラナ・ゼロモードが現れる場合があることを明らかにした。また、このマヨラナ・ゼロモードは、ある種の場合には乱れに対してもロバストであることを、ハミルトニアンと交換する演算子を構成することで具体的に示した。さらに、最近接相互作用のある場合もフェルミオン・パリティによる議論および数値計算から、ある捻り角においてマヨラナ・ゼロモードが存在することを明らかにした。 (2)Nicolaiによって1970年代に提案された超対称性のある格子フェルミオン系を拡張し、その系において i)自発的な超対称性の破れが起こること, ii)分散関係が波数の1乗に比例する低エネルギー励起があることを明らかにした。また、超対称性はあるがU(1)対称性のない格子フェルミオン系を新たに構成し、この系において、i)自発的な超対称性の破れが起こること, ii)分散関係が波数の3乗に比例する低エネルギー励起があることを明らかにした。また、後者の模型において、パラメターgがゼロの場合、基底状態に巨視的な縮退が現れるが、その個数の下限や基底状態エントロピーの計算なども行った。 (3)2次元電子系でのHofstadterの蝶とCalabi-Yau幾何のトポロジカル不変量の間の関係を明らかにした。特にHofstadter問題の状態密度と、量子A周期と呼ばれる量の虚部の微分が対応することを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の2つの大きなテーマは、1.強相関トポロジカル相のエッジ状態、2.超対称性の破れと南部・ゴールドストーンフェルミオン、であるが、それぞれについて一定の進展があった。 テーマ1の結果は、従来は系に端がある場合にだけ現れると考えられていたマヨラナ・ゼロモードが、端がない場合にも原理的には現れ得ることを明らかにしたものであり、意義のある結果である。また、捻り境界条件は、物理的にはリング状の系を貫く磁束とジョセフソン結合により実現できると考えられる。また、乱れのある場合にもハミルトニアンと交換するマヨラナ・ゼロモードは、先行研究では端のある半無限系でのみ構成されていたが、本研究ではそれをリング状の有限系でも構成できることを示している。 テーマ2については、超対称性量子力学の最初の模型であるNicolai模型の自然な拡張を2種類構成し、それらにおいては、オリジナルのNicolaiの模型とは異なり、超対称性が自発的に破れる場合があることを明らかにし、さらにその低エネルギー励起について調べた。用いた手法も、不等式などの数理物理的手法や数値対角化などで、従来この分野で主に用いられる場の理論的手法とは異なる独創的なものである。また、U(1)対称性のない模型については、低エネルギー励起が波数の3乗に比例するというエキゾチックなものである点も興味深い。今後、南部・ゴールドストーンボソンに比べて理解の遅れている、対称性の破れと南部・ゴールドストーンフェルミオンの関係についての一般論に向けての礎になるものと考えている。
テーマ1については相互作用のある場合についての進展はやや遅れているが、テーマ2については当初の計画以上に順調に進展している。したがって、全体としてはおおむね順調に進展している、と考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
29年度以降も、2つのテーマについて並行して研究を推進する。 1.強相関トポロジカル相のエッジ状態 相互作用するフェルミオン系とみなせる、XYZスピン鎖のような1次元スピン系におけるエッジ演算子(ハミルトニアンと交換する系の端に局在する演算子)について研究を進める。特に、XYZ鎖については、Fendleyによる先行研究があるが、その結果を行列積演算子(MPO)により表現することで、より広いクラスの模型に拡張することを試みる。また、最近トポロジカル相とは別の文脈で関心を集めている、PT対称性のある非エルミートな量子多体系についても、エッジ演算子のアイデアを適用する。具体的には、境界に複素磁場のかかったスピン鎖におけるエッジ演算子の存在の有無と、PT対称性の破れ(複素エネルギー固有値が現れること)がどのように関係するかを議論する。 2.超対称性の破れと南部・ゴールドストーンフェルミオン 前年度までに、幾つかの具体的な模型において、超対称性の破れにともないギャップレスな低エネルギー励起が現れることが明らかになっている。本年度は、さらにマヨラナフェルミオンを用いて、N=1の超対称性をもつ格子フェルミオンを構築し、この系における自発的な対称性の破れと低エネルギー励起を、i)不等式などを用いた数理物理的手法、ii)少数系の数値的対角化、を併用して調べる。また、スピンとマヨラナフェルミオンが結合した系への拡張も模索する。 これらの研究は、所属大学院生と共同研究者(素粒子理論)と協力して進めていく予定である。
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Research Products
(18 results)