2016 Fiscal Year Annual Research Report
トポロジカルポンピング現象の冷却原子を用いた新展開
Publicly Offered Research
Project Area | Frontiers of materials science spun from topology |
Project/Area Number |
16H00990
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
高橋 義朗 京都大学, 理学研究科, 教授 (40226907)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 量子エレクトロニクス |
Outline of Annual Research Achievements |
1983年に、サウレスは一次元格子上の電子気体系においてポテンシャルを周期的に断熱変化させたとき、一周期後の電荷の移動量が量子化され、それがトポロジカル不変量であることを最初に見出した。我々は二つの波長を重ね合わせた光超格子系の制御性の高さを最大限に駆使して、そのパラメーターを断熱的に変化させることで、世界で初めてサウレスのトポロジカルチャージポンピングを実現することに成功した。本研究では、これをさらに発展させ、トポロジカル量子物質の物理に新たな展開をもたらすことを研究の目的とした。より具体的には、冷却イッテルビウム原子を対象とした。これにより、その豊富な内部自由度を利用することが可能になる。特に、電子軌道状態を実効的なスピン自由度とみなした“スピン”ポンピングを実現することを目指して研究を開始した。さらに、原子間相互作用や不純物やランダムポテンシャルに対する、トポロジカルポンピングの堅牢性を明らかにすることを目的として設定した。 本年度の研究実績として、上記の研究目的に向けて、概ね順調に研究を進めることができ、具体的には、以下のような成果を得ることができた。まず、スピンポンピングを実現するための、具体的な光超格子の配置を確定し、そのための準備をすすめた。さらに、原子間相互作用が異なる同位体に対して同様のトポロジカルチャージポンピングを行い、堅牢性を確認した。さらに、乱れポテンシャルを導入したうえでトポロジカルチャージポンピングを行い、堅牢性を確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記に記載の通り、概ね順調に研究を進めることができた。具体的には、まず、スピンポンピングを実現するための、具体的な光超格子の配置を確定し、そのための準備をすすめた。イッテルビウム原子を用いることにより、その豊富な内部自由度を有効に活用できるという可能性を追求した結果、電子基底状態1S0をスピンダウン、準安定電子励起状態3P2をスピンアップ、とするアイデアを着想し、そのための、具体的な光超格子の配置を考案した。 さらに、原子間相互作用が異なる同位体に対して同様のトポロジカルチャージポンピングを行い、堅牢性を確認した。これまで実験で用いた171Yb原子は、ほとんど相互作用のない系とみなすことができ、理想的なトポロジカルチャージポンピングを実現できた。イッテルビウム原子には、このほかに、斥力相互作用する別のフェルミ同位体173Ybがあり、さらに、171Ybと173Ybの間には引力相互作用が働く。これらの同位体についても同様に、超低温の原子集団を容易して、トポロジカルチャージポンピングを行い、堅牢性を確認した。 さらに、乱れポテンシャルを導入したうえでトポロジカルチャージポンピングを行い、堅牢性を確認した。798nmの波長の光格子を、現有の光超格子に45度傾けて導入することで、この波長がもともとの光超格子の格子定数に対して非整数となっているため、準周期ポテンシャルとして働き、有限系であるため、実質的な乱れポテンシャルとして機能する。この乱れポテンシャルの大きさを変えながら、同様にトポロジカルチャージポンピングを行い、長い格子定数をもった光格子のポテンシャルの深さ以下の場合に、堅牢性を確認した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに我々が実現した、光超格子を動的に制御することによる、トポロジカルチャージポンピングの研究をさらに発展させる。ほとんど相互作用しないフェルミ同位体171Ybのフェルミ縮退原子気体、および、斥力相互作用するフェルミ同位体173Ybのフェルミ縮退原子気体、および引力相互作用する同位体のペアである、171Ybと173Ybの混合フェルミ縮退原子気体を、それぞれ生成し、そこに光超格子ポテンシャルを印加し、周期的かつ断熱的に変化させ、チャージポンピングを誘起する。 この時、観測されたチャージポンピングの堅牢性を様々な観点から確認する。まず、上記のように準備した系の比較実験により、粒子間相互作用に対する堅牢性をこれまでより定量的に評価する。特に、斥力相互作用する系において、光超格子ポテンシャルの深さよりも相互作用の方が常に大きくなるような配置でチャージポンピングを行い、イオンニック相への相転移の影響を確認する。このとき、チャージポンピングが大きく抑制されることが期待される。 また、ランダムポテンシャルに対する依存性を明らかにする。トポロジカルポンピングが、この摂動に対してどの程度ロバストであるかを実験的に定量的に明らかにし、理論的に考察を進める。 さらに、実効的に導入したスピン自由度に対して、トポロジカルスピンポンピングを実現することを目指す。特に、スピンダウンとスピンアップに対して、スピン依存性があるポテンシャルを構成する必要がある。我々は、これを、752nmの波長の光格子を現有のシステムに加えることによって実現できることを見出し、この波長の光源を実際に準備して、実際にこれまで光格子の影響を原子を用いて確認することができた。これをさらに進める。
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