2016 Fiscal Year Annual Research Report
多金属高活性反応場による低分子量分子ジョイント化学
Publicly Offered Research
Project Area | Precise Formation of a Catalyst Having a Specified Field for Use in Extremely Difficult Substrate Conversion Reactions |
Project/Area Number |
16H01004
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
荒井 孝義 千葉大学, 大学院理学研究科, 教授 (80272483)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 触媒反応 / 不斉合成 / 錯体化学 |
Outline of Annual Research Achievements |
複数の金属、特に異種金属の協調作用を取り入れた不斉触媒の創製は魅力的である。本研究では、複数の金属が協調するユニークな反応場の合目的な構築によって、新奇な触媒的不斉合成の確立を目指している。2014年我々は、亜鉛三核錯体を用いる触媒的不斉ヨードラクトン化に成功した。わずか1 mol %の触媒により99.9% eeの光学活性ラクトンを定量的に与える反応であり、世界最高記録の触媒的不斉ヨードラクトン化である。本触媒系について精査したところ、NISを用いるヨードラクトン化には、I2の添加が触媒活性の向上に役立つ一方、NBSを用いるブロモラクトン化では、I2やBr2を添加せずに-40℃に上昇させて反応を行うことで十分に高い不斉誘起を発現することが分かった。そこで、実験化学ならびに計算科学の両面から、反応機構の解明に取り組んだ結果、NISを用いるヨードラクトン化では、NIS とI2との間にL字型のハロゲン結合を形成し、ヨードラクトン化をスムーズに進行させていることが分かった。 一方、亜鉛三核錯体の開発をもとに、ソフトな金属とハードな金属を選択的に取り込むphosphoiminoBINOL配位子を設計した。本配位子を用いて開発を目指す反応として、マロノニトリルなどの低分子量化合物をジョイント分子とする光学活性物質の創成を設定した。phosphoiminoBINOL配位子に種々のハード性の高い金属塩とソフト性の高い金属塩を作用させて錯体を調製し、N-Bocイミンへのマロノニトリルの触媒的不斉Mannich反応を試みた。phosphoiminoBINOL配位子に酢酸パラジウム、酢酸亜鉛を作用させた錯体の触媒活性が最も高かった。また、マロノニトリルに対しN-Bocイミン2.5等量を加えることで1:2生成物である1,3-ジアミンを高収率、高エナンチオ選択的で得ることにも成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
ヨードラクトン化の遷移状態解析でNIS とI2との間にL字型のハロゲン結合を形成し、ヨードラクトン化をスムーズに進行させていることが示されたことは予想以上の成果であった。本L字型の相互作用は、ハロゲン結合を取り入れた高立体選択的な触媒反応の精密制御に繋がる大きな成果である。 また、ホスホイミノビナフトール-パラジウム2核錯体を用いるN-BocイミンとマロノニトリルのMannich 型反応において、99%eeの高い光学純度にて目的とするジアミン化合物が得られたことも予想以上の成果である。本反応では、いわゆるmeso-trickという機構により、1:1生成物よりも1:2生成物の光学純度が向上していることを示すことができた。 さらに、複数の金属間の相互作用に限らず、金属とプロトンの相互作用を取り入れた精密制御反応場の構築研究においてもインドールの不斉還元や塩基性条件下でのインドールの活性化など合成的に有用な新規触媒的不斉反応の創製に成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
独自に開発した亜鉛三核錯体を用いる触媒的不斉ヨードラクトン化について、平成28年度の研究ではNISを用いるヨードラクトン化では、NIS とI2との間にL字型のハロゲン結合を形成し、ヨードラクトン化をスムーズに進行させていることが示唆された。本遷移状態を基に、平成29年度はヨードラクトン化に限らずブロモラクトン化やクロロラクトン化、さらにはフルオロラクトン化など、合成的価値の高い汎用ハロラクトン化を確立する。また分子内反応であるラクトン化をより普遍的な分子間ハロエステル化反応に研究を展開する。本目的を達成するために、求核攻撃を行うカルボン酸のpKaと大きさは反応効率と生成物の光学純度に大きな影響を与えると考えられることから、網羅的な亜鉛カルボキシレートの探索と配位子の構造活性相関の検証を行う。さらに、アミド基質を用い、酸素環化と窒素環化を触媒により制御し、高立体選択的な触媒的不斉ラクタム化反応の開発を目指す。一方、平成28年度に開発したホスホイミノビナフトール-パラジウム2核錯体を用いるN-BocイミンとマロノニトリルのMannich 型反応において、効果的な『オーバーリアクション』を制御することによる1,3-ジアミンの触媒的不斉合成に成功したことから、平成29年度は、反応機構の解明を行う。例えば、単離した1:1Mannich付加生成物を原料とし、1:2生成物を与える反応を検討する。1:1Mannich付加生成物からも反応が円滑に進行する場合には、非対称ジアミンの合成も可能になる。一方、単離した1:1Mannich付加生成物からは反応が進行しない場合にはタンデム反応と理解でき、これは反応機構の理解に重要な知見を与える。
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