2016 Fiscal Year Annual Research Report
Novel superconducting properties protected by spin-orbit interaction at electric-field induced conducting surfaces
Publicly Offered Research
Project Area | J-Physics: Physics of conductive multipole systems |
Project/Area Number |
16H01061
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
野島 勉 東北大学, 金属材料研究所, 准教授 (80222199)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 物性実験 / 低温物性 / 電界誘起超伝導 / 表面・界面物性 / スピン軌道相互作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、特徴的なスピン軌道相互作用が働く3d、4d、5d電子系の電場誘起表面における超伝導保護効果の実体を理解するとともに、その効果によって現れると予測される新奇な超伝導状態を、電気二重層トランジスタ(EDLT)の手法を用いて探索することである。平成28年度は、SrTiO3(3d電子系)とMoS2(4d電子系)のEDLTにおける超伝導特性を調べた。 SrTiO3では、4Vのゲート電圧を印可した試料において、これまでの報告例の中でも最も高いオンセット温度500mKを持つ超伝導転移を観測し、この試料の面内方向の臨界磁場が低温領域で通常の軌道極限であるギンツブルグ-ランダウ理論の予測値より、高くなるという特異な現象を観測した。さらにゼロ温度に外挿した臨界磁場の値も2.5テスラを超え、これまでにない大きな値となった。MoS2では、6Vのゲート電圧を印加した試料(超伝導転移温度5.9K)において、17T(5.2K以上)までの測定で、面内の臨界磁場が同様に軌道極限の理論予測より大きくなることとともに、臨界磁場の方位依存性も同理論予測から逸脱する現象を観測した。これらの結果は両電子系の面内臨界磁場が、スピン軌道相互作用により増強された常磁性極限そのものによって決定されることを明確に示す新しいものである。MoS2ではさらにトンネル伝導特性を測定し、通常の等方的なスピン一重項を仮定したモデルでは説明ができないブロードなゼロバイアス伝導度を示すこと、データから見積もられる超伝導ギャップの大きさが弱結合理論の予測値の2倍以上であるという特異な現象を観測した。以上の結果はすべて電場誘起超表面の超伝導伝導機構がエキゾチックになっている可能性を強く示唆するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
28年度の重要な結果の一つは、SrTiO3(3d電子系)とMoS2(4d電子系)のEDLTの両者における臨界磁場特性が、通常の軌道極限の予測から大きな値の方向にずれることをはじめて示したことである。これまでEDLTの大きな臨界磁場は、そこで働く大きなスピン軌道相互作用の効果によってスピンがロックされた結果、臨界磁場のもう一つの極限である常磁性極限が大きくなったためだと定性的に解釈されて来た。しかし実際に観測される臨界磁場の決定機構は、未解決のままであった。本研究は常磁性極限そのものが観測された希な例となる可能性が大きく、超伝導の保護効果が具体的にどのように観測に現れるかを示すことができた。今後、他の試料での測定の指標にもなると考えられる。さらにもう一つの成果として、MoS2のEDLTを用いて、電場誘起超伝導体としては初となるトンネル伝導度を観測することに成功し、それが従来型の超伝導とは違う新奇なものであることを見いだした。今後SrTiO3も含めて磁場中でのトンネル測定を行うことで、より具体的な超伝導電子状態の描像が明かになる。 研究開始当初、28年度中に、KTaO3(5d電子系)での超伝導特性を測定する予定であったが、この系の低い超伝導転移温度を観測する実験準備が整わなかった。しかし29年度に実施予定であったMoS2に関する実験を前倒しで行うことができた。KTaO3に関しては試料の準備はすでに整っており、極低温での電気抵抗特性を測定する前段階にある。SrTiO3のトンネル測定も実験の最中である。よって計画全体から見るとおおむね順調に研究は進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究により、SrTiO3およびMoS2の面内の臨界磁場は、少なくとも従来の薄膜超伝導で多く見られる軌道極限ではなく、むしろスピン軌道相互作用により増強された常磁性極限機構によって決定される可能性が強まった。トンネル伝導度測定でも従来型の等方的ギャップの特性から逸脱したふるまいが得られており、これは臨界磁場の測定結果とつじつまがある。今後、この結果および解釈を決定的なものにするため、より低温・強磁場(SrTiO3では0.1K以下、MoS2では5K以下)での臨界磁場の温度依存性、磁場方位依存性を行う。特にMoS2では巨大な臨界磁場のため17T以上というさらなる強磁場中での実験が必要となるが、金属材料研究所強磁場超伝導材料研究センターの25Tマグネットのマシンタイムの利用申請は採択済みであり、実行可能である。トンネル伝導度測定に関しては、MoS2ではデータを面内磁場中のものに拡張すること、SrTiO3では0.1K以下での低温および面内中での観測を目指す。特に28年度MoS2で得られたゼロバイアス伝導度のピーク構造に焦点を絞る。トンネル特性の解析は超伝導ギャップの異方性や電子対の重心運動を考慮しなければ進まない可能性が高いため、J-Physicsの領域内の理論グループとも連携をとりながら進めていく予定である。 KTaO3のEDLTに関しては、超伝導転移温度が0.04K程度となるため、測定は使用予定の希釈冷凍機の最低温度近傍になることが予測される。しかし、5d電子系であるため、スピン軌道相互作用の効果は3d、4d系にくらべ大きい(つまり臨界磁場は非常に大きい)と予測されるため転移温度近傍でも十分大きな効果が期待できる。
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Research Products
(9 results)