2016 Fiscal Year Annual Research Report
多重量子ドット系の幾何学的対称性を利用したナノスケール多極子物性の創出
Publicly Offered Research
Project Area | J-Physics: Physics of conductive multipole systems |
Project/Area Number |
16H01070
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
古賀 幹人 静岡大学, 教育学部, 教授 (40324321)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 強相関電子系 / メゾスコピック系 / 多極子 / 量子ドット / 近藤効果 / パリティ混成 / スピン軌道相互作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究実施の初年度にあたる今年度は、本学術領域研究の重要課題である「パリティ混成」および「スピン軌道相互作用」がもたらす新奇物性の開拓を目指す上で、2016年5月の領域会議および6月の理論研究会で議論された検討課題を参考にし、早期に明らかにすべき課題として「反対称スピン軌道相互作用」に焦点を当てた。本研究課題で調べる三角形量子ドット系における分子軌道についても、この相互作用は重要な役割を果たす可能性がある。実際、近藤効果によって誘起される三角形内の電気分極を局所的な電場によって制御できる条件を見出した。また、反対称スピン軌道相互作用によってスピンと軌道が結合することに起因して、局所的に反磁性効果が現れることは新たな発見である。さらに、近藤効果による誘起電気分極の制御について、反対称スピン軌道相互作用がもたらす軌道パリティ混成の効果は、三角形量子ドッドループを貫く磁束と類似性があることが示された。後者については、量子ドットを介した2つのリード間の電気伝導に関する多くの先行研究と密接な関係があり、新たな量子デバイスの提案が期待される。 以上の研究成果を2017年3月の日本物理学会で発表し、最近論文として出版した。今後、2017年7月の強相関電子系国際会議および9月に本学術領域が主催する国際ワークショップにおいても成果報告する予定である。 本研究成果は、本学術領域研究の研究項目C01が目指す、拡張多極子がもたらす新奇物性について、ナノ物性分野への拡大の布石となると考える。また、現在スピントロニクスをはじめ、様々な研究分野で注目されている反対称スピン軌道相互作用の新たな側面が明らかになると期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定していた前年度の研究目標は量子ドット系における多極子近藤効果の探索であったが、本新学術領域研究の重要課題である「パリティ混成」および「スピン軌道相互作用」がもたらす新奇物性の開拓のほうを優先的に調べてきた。実際、様々な研究分野において反対称スピン軌道相互作用がもたらす新奇物性の研究が国内外で急速に発展している。もともと2年目である本年度において、スピンと電荷が絡む電気磁気効果についても研究する予定であり、大幅な研究計画の変更にはあたらない。したがって、初年度に前倒しでスピン軌道相互作用を考慮した研究に取り組むことになった。主な研究成果として、局所的な反対称スピン軌道相互作用と近藤効果を利用した三角形三重量子ドット系における誘起電気分極とそれに連動したスピン状態の変化を明らかにし、論文として出版した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、今後予定されている強相関電子系国際会議や関連する国際ワークショップで前年度の研究成果を発表する予定である。特に、本理論が提案する局所電場によるスピンと電荷の精密制御について、関連する研究グループとの情報交換を考えている。また、前年度の研究をさらに発展させるとともに、当初の研究目標であった、バルク物質での制御が難しい多極子物性を量子デバイスによってどのように実現するか、その可能性を追求する。特に、(1)異なるパリティ軌道に由来する量子臨界点の探索とそれを利用した電気磁気効果の精密制御、(2)多重量子ドット系でのスピン軌道相互作用を利用した多極子(例えば、スピン積で表現される電気分極)の制御およびそれに起因する新しい近藤効果の探求について重点的に調べる。 本研究計画を遂行するにあたって、本学術領域研究組織を構成する研究者との研究交流は重要である。実際、研究項目C01「拡張多極子による動的応答」に関する研究の最新情報は、多極子の新概念を構築する上で重要な指針となる。また、研究項目D01「強相関電子系多極子物質の開発」において、特に四極子近藤効果の実験的確証など本学術領域研究の1つの柱となる研究の進捗状況をいち早く把握することは、量子ドット系への応用を世界に先駆けて推進していくためにも必要不可欠である。
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Research Products
(7 results)