2016 Fiscal Year Annual Research Report
次世代分光観測で拓く暗黒物質探査の新展開
Publicly Offered Research
Project Area | Why does the Universe accelerate? - Exhaustive study and challenge for the future - |
Project/Area Number |
16H01090
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
林 航平 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 客員准科学研究員 (20771207)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 暗黒物質 / 素粒子論 / 銀河系 / 矮小銀河 / 銀河動力学 |
Outline of Annual Research Achievements |
銀河系に付随する矮小楕円体銀河は暗黒物質が含まれる割合が他の銀河に比べて大きい為、ガンマ線を用いた間接的検出実験による暗黒物質探査研究に最も適した天体である。この銀河の暗黒物質がどのように分布しているのかを正確に知ることがこの研究において最も重要な点である。この暗黒物質分布は矮小楕円体銀河の星の視線速度分布から求める事が出来るが、観測量や力学解析の不十分さに起因する系統誤差が大きく、この問題を検討する必要性が指摘されている。 当該年度では、我々は矮小楕円体銀河暗黒物質分布評価における不定性の1つである銀河系ハロー星に注目し、このコンタミネーションを考慮した独自の解析手法を構築することに成功した。銀河系ハロー星は、その等級、色、金属量、表面重力を用いてある程度矮小楕円体銀河に付随する星と区別することが出来るが、それでも区別しきれないコンタミネーションが多く存在している。これまでの解析ではこれらのコンタミネーションを矮小楕円体銀河のメンバー星だとして動力学解析を行っていた可能性が高く、コンタミネーションの系統誤差を正しく考慮していなかった。 この解析手法では、ある星が矮小楕円体銀河メンバー星である可能性と銀河系ハロー星である可能性をそれぞれ確率密度関数で表現する。この関数を星の空間・速度分布と矮小楕円体銀河中心からの距離を用いて定義し、暗黒物質分布のパラメータ推定と同時に計算する事でコンタミネーションの影響を直接考慮したパラメータ推定が可能になった。この解析手法を複数の模擬データを用いて検証した結果、暗黒物質分布を精度良く再現することに成功した。またこの手法はコンタミネーションの情報が多いほど効果的であるため、すばる望遠鏡に取り付けられる超広視野多天体分光器(PFS)を用いた矮小楕円体銀河の広範囲の深い分光観測が非常に重要であることも示す事が出来た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
銀河系ハロー星のコンタミネーションによる暗黒物質分布の系統誤差は、当該研究において解決すべき問題の1つであった。この問題に対して新たな解析手法を構築し、様々なパターンの数多くの模擬データを用いて非常に詳細に調べた事で、この独自の解析手法を確立することが出来た。これは今後の矮小楕円体銀河動力学解析に及び暗黒物質探査研究において重要な成果である。 さらにこの成果は現在計画が進められているすばるPFSの大規模サーベイの重要性を示唆している。当該研究の代表者もサーベイデザイン構築の一端を担っているこのサーベイは、銀河系矮小楕円体銀河が最重要サイエンスターゲットとなっており、これまでの観測データに比べてより広く深い分光データを取得する事が出来る。我々の解析手法は観測データが広天域で数多くあるほど効果的であるので、すばるPFSを用いた銀河系矮小楕円体銀河観測の必要性を示すことが出来た。 またこれらの成果はすでに学術論文として2本執筆しており、うち1つは査読付き論文としてMonthly Notices of the Royal Astronomical Societyに掲載決定済である。 一方でこの解析手法は、コンタミネーションによる暗黒物質分布の系統誤差のみに着目しており、暗黒物質分布の非球対称構造による不定性は考慮していない。当該研究の最終的な目標は考えられる主な系統誤差を全て考慮した解析手法の構築及び確立であり、それは翌年度に実施する予定である。 以上の理由から、当該研究はおおむね順調に進展していると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究により、矮小楕円体銀河暗黒物質分布の評価において大きな系統誤差の1つであるコンタミネーションとしての銀河系ハロー星を考慮した新たな解析手法を構築及び確立することに成功した。 今後はこの解析手法をさらに拡張し最適化を行っていく。この手法も問題点の1つは矮小楕円体銀河の暗黒物質分布や恒星分布を球対称と仮定しているところである。観測から得られる矮小楕円体銀河は非球対称であり、宇宙論的銀河形成シミュレーションで得られる暗黒物質分布も非球対称である事が示唆されている。よってこれらの非球対称性は暗黒物質の制限に対して大きな不定性となっている。したがってこれらの非球対称構造を考慮した新たな解析手法の構築を行う。また非球対称構造に対応する模擬データを作成し、この解析手法を適用させることで暗黒物質分布の決定精度がどの程度改善されるかを調べ、この結果が暗黒物質質量と対消滅断面積にどれだけ正確な制限を与えられるのかを評価する。 非球対称構造を考慮した動力学モデルは既に構築しており、これに先のコンタミネーションを考慮した解析手法に組み合わせ構築していく予定である。一方で模擬データの作成も球対称から非球対称への拡張が必要である。等級、色、金属量や表面重力などの恒星パラメータの星への割り振り方法や銀河系ハロー星の分布は前回と同様であるが、矮小楕円体銀河の星の空間及び速度分布の生成は大きく異なり、非球対称暗黒物質分布を仮定した分布関数を用いる。 模擬データを様々な暗黒物質分布モデルを仮定して生成し、このデータに新たに構築する解析手法を適用することで、コンタミネーションと非球対称構造の不定性を考慮した上でどの程度精度良く、そしてロバストに暗黒物質分布パラメータを決定出来るのかを調査する。
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