2016 Fiscal Year Annual Research Report
受精前の卵子は最終分化した細胞なのか:全能性獲得の準備段階としての卵子
Publicly Offered Research
Project Area | Analyses and regulation of germline epigenome |
Project/Area Number |
16H01215
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
青木 不学 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (20175160)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | リプログラミング / 全能性 / 卵 / 受精卵 |
Outline of Annual Research Achievements |
受精前の卵は分化した細胞であるが、受精後の1細胞期胚は全能性を獲得し、あらゆる種類の細胞へと分化できる能力を有するようになる。この受精前後における分化・全能性の変化を調節する機構はこれまでほとんど明らかにされていない。一方、申請者のこれまでの研究において、成体組織の体細胞では見られない受精後の胚に特徴的な現象の一部が、受精前の卵でも観察された。したがって、受精前の卵は最終分化した細胞というよりは、むしろ全能性を持つ受精後の胚の前段階の状態にあるということが考えられる。すなわち、全能性への変化は受精を機に一気に開始されるのではなく、受精前の卵形成過程ですでに準備がなされているということである。そこで本研究では、この仮説を検証することを目的として、まず、クロマチン構造および遺伝子発現について受精前の卵と受精後の胚での共通な要素を明らかにしていく。 本年は、まず受精前の卵において、クロマチン構造が全能性を有する1、2細胞期胚と近い状態にあるのかどうかについての検証を行った。すなわち、全能性を有する、1、2細胞期胚の特徴であるクロマチン構造の緩みをFRAP法で調べたところ、成長期卵は1細胞期胚よりは締まった構造をしていたが、2細胞期胚よりも緩んだ構造となっていることが分かった。したがって、受精後の胚に特異的な性質の一部が受精前の卵ですでに備わっていることが示された。また、クロマチン構造を緩める機能を持つChdファミリーの発現を受精前後で調べたところ、Chd9が卵で高発現していることが分かった。 次に、全能性を有する1細胞期胚の特徴として遺伝子間領域が活発に転写されているということが明らかとなっているが、これについてRNAシーケンスのデータを解析したところ、受精前の卵でも遺伝子間領域が活発に転写されていることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の計画は、まず、研究実績の項で記したように、受精前の卵におけるクロマチン構造を調べることである。すなわち、全能性を有する1、2細胞期胚は極端に緩んだクロマチン構造をしているが、分化した細胞では締まった構造になっていることが知られており、これが受精前の卵ではどのようになっているかを明らかにするというものである。その結果、卵では1、2細胞期の中間程度に緩んでおり、卵では全能性獲得の準備状態が進行していることが示唆された。また、卵でクロマチン構造を緩める因子の候補を本研究室のRNAシーケンスデータで探索したところ、クロマチンの構造の調節に関わるCHDファミリーの中のChd9が有力な候補として挙げられた。 以上、本年度ではまずクロマチン構造に関しての解析を行う計画となっていたが、順調に実験が進行し、仮説通りというよりもむしろ想定していた以上に卵でクロマチン構造が緩んでいることが明らかとなり、十分な研究の進展があったものと考えられる。次に、1細胞期胚の特徴である遺伝子間領域での活発な転写についても、RNAシーケンスの解析で卵においても同様の傾向があることが明らかとなり、当初の計画が十分に達成されたものと言うことができる。さらに、RNAシーケンスの解析によって、卵において高発現しているクロマチン構造を緩める因子を見出すことができ、全能性を調節する因子の候補などが得られたことから、本年度の研究計画は順調に達成されたものと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の実験計画にChd9の機能解析を加え、以下の実験を行う予定とする。 (1)Chd9の機能解析:卵において緩んだクロマチン構造の形成に係る因子の候補であるChd9をRNAiでノックダウンした後、FRAP解析を行うことで、クロマチン構造の変化を調べる。 (2)卵における転写制御機構の解析:発現遺伝子の制御領域の解析を行うことで、卵および1、2細胞期胚における転写制御機構の類似点および相違点を明らかにする。 (3)リプログラミング準備段階の検証:ヒストン変異体および(2)で明らかになった転写制御の類似あるいは相違に関わる因子を成長期卵でノックダウンあるいは過剰発現させて、受精後の全能性獲得への影響を調べる。 以上のステップのうち、まず、計画(2)のステップについては、発現遺伝子の制御領域の解析を行うことで、卵、初期胚およびES細胞における転写制御機構の類似点および相違点を明らかにする。次いで、これまでの研究および(2)で明らかになった転写制御の類似あるいは相違に関わる因子を成長期卵でノックダウンあるいは過剰発現させて、その全能性獲得への影響を調べる。これらの実験によって、受精後の胚に特異的な性質の一部が受精前の卵ですでに備わっていることが、受精後の全能性獲得に必要であるかどうかを検証することができる。
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Research Products
(5 results)