2016 Fiscal Year Annual Research Report
ROS応答性転写因子による新たな根の成長制御メカニズム
Publicly Offered Research
Project Area | Multidimensional Exploration of Logics of Plant Development |
Project/Area Number |
16H01238
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Research Institution | Meijo University |
Principal Investigator |
塚越 啓央 名城大学, 農学部, 准教授 (30594056)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ROSシグナル / 転写因子 / 転写ネットワーク / 根の成長制御 / 側根の発生 |
Outline of Annual Research Achievements |
植物の根の成長制御に関わる分子として植物ホルモン以外に活性酸素種(ROS)が近年注目されている。しかし成長制御に関するROSの研究は不十分であると言える。ROSのシグナル分子としての役割を理解することは新たな植物成長制御系の発見につながると考え、本研究では根の伸長制御に関わる新奇のROSシグナル伝達機構、特に転写ネットワークを紐解くことを第一の目的とした。 本年度までに、転写因子RFRT1がROSシグナルを受容し、極長鎖脂肪酸(VLCFA)の輸送に関わるLTP5、LTPG1、LTPG2の発現を制御することで、根の細胞伸長制御と病害応答の二つの役割を果たすことを明らかにしている。 今年度は、RFRT1標的因子LTPGの機能であるVLCFAの輸送が、どのように根の成長制御、特に細胞伸長に寄与しているかの解析を進めた。LTPG1とLTPG2の詳細な発現解析から、これらが根の屈曲時に内側のConcave側で発現が強くなることがわかった。そこで、RFRT1自体の発現も調べてみると、LTPG1、LTPG2と同様にConcave側での発現が強くなっていることが明らかになった。また、rfrt1とltpg1/ltpg2変異株において有意な重力屈性の異常が見られた。また、ROSがConcave側で蓄積するという報告もあり、RFRT1を介したLTPGの発現が一時的な細胞伸長抑制に関わり、偏差成長を制御している可能性が示唆された。 さらにLTPG1とLTPG2は側根形成時の初期段階から側根原基最外層で発現していた。また、ltpg1、ltpg2変異株では側根原基の数が野生型株と比較して顕著に低下していた。以上のことから、側根形成にもLTPGによるVLCFAの輸送が関わる可能性が強く示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度の研究計画にあったタイムラプスイメージングを用いたRFRT1の標的因子の機能解析も概ね順調に進み、RFRT1やLTP遺伝子群の発現様式を詳細に解析することができた。また、RFRT1が制御する転写ネットワークと病害応答機構との関連においては、植物病原菌の接種実験は菌株の選択が困難であった。しかし、菌接種の代わりにMAMPエリシターであるFlg22を用いた実験において、Flg22のシグナル下でRFRT1が働き根の伸長制御をおこなっていることを明らかにすることができた。このことは"植物成長制御と病害応答がRFRT1を中心とした転写ネットワークを共有している"というメカニズムを明らかにする当初の目的をある程度達成できたと言える。 またRFRT2の解析においても、RFRT1との関係を調べるための遺伝学的リソースを順調に作成することができた。さらには酵母ワンハイブリッド法からRFRT2とは異なるRFRT1制御候補転写因子を獲得することもできた。 以上の研究結果に加え、RFRT1の標的因子であるLTPGが根の偏差成長や側根の形成過程に深く関わっていそうだという結果が得られたことは大変有意義であると言える。ROSのシグナルが根の細胞伸長のみならず、重力屈性や新たな器官発生に関わるという分子メカニズムを解き明かすことができれば新たな発生ロジックの解明につながると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度に作成したRFRT2誘導発現株やRFRT1プロモーター結合転写因子の過剰発現株を用いた根の伸長に関わる遺伝学的解析を進める。これにより、RFRT2とRFRT1の関係を明らかにし、ROSによる根の成長制御機構に新たな知見をえる。 RFRT1の標的因子の研究に関しては、引き続きタイムラプスイメージングを行いそれらの発現様式をより詳細に解析を進める。 特にLTPG1やLTPG2に関しては偏差成長並びに側根形成時における役割の解析を進める。これらの制御には植物ホルモンであるオーキシンが深く関わっている。そこで、ltpg1,ltpg2変異株とオーキシンレポーターであるDR5::GFPを導入する植物体を作成する。この植物体を用いて、オーキシンシグナルとltpgの関わりを調査する。また、オーキシンを直接ltpg1,ltpg2変異株に処理することで、その表現型の解析を進める。特に側根原基の数の変化や重力屈性に与える影響を調べる。オーキシンの影響のみならず、極長鎖脂肪酸の合成阻害剤や、直接極長鎖脂肪酸を投与する実験も試み、極長鎖脂肪酸が果たす根の成長制御に関する新たな知見を得る。 ROSシグナルと極長鎖脂肪酸との関わりを明らかにすることも重要になるので、ROS生成に関わる酵素の変異株や過酸化水素除去に関わるペルオキシダーゼ遺伝子の過剰発現株を用いた解析も進めることとする。
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Research Products
(2 results)