2016 Fiscal Year Annual Research Report
植物発生・パターン形成に関する数理的研究
Publicly Offered Research
Project Area | Multidimensional Exploration of Logics of Plant Development |
Project/Area Number |
16H01248
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Research Institution | National Institute for Basic Biology |
Principal Investigator |
藤田 浩徳 基礎生物学研究所, 共生システム研究部門, 助教 (10552979)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 自己組織的パターン形成 / 数理モデル解析 / オーキシン極性輸送 / 葉序パターン / 花原基whorlパターン形成 / ABCモデル |
Outline of Annual Research Achievements |
植物の葉序パターンは幾何学的な模様を作り出すことで広く知られている。この規則的パターンは、植物ホルモンのオーキシンとその膜輸送タンパク質PIN1の相互制御により形成されることが知られている。実際に、隣の細胞のオーキシン濃度に依存した細胞膜上のPIN1局在制御を組み込んだ単純な数理モデルにより、葉序の規則的パターンがうまく再現される。 しかしながら、この数理モデルは極端に単純化されており、実際の植物細胞の特徴を必ずしも反映されている訳ではない。そこでより実際的な細胞環境を反映させるために、隣の細胞外領域のオーキシン濃度に依存的したPIN1局在制御に改変した数理モデルを構築し、理論的解析および数値シミュレーションによる検証を行なった。しかし驚くべきことに、この改変モデルにおいて規則的パターンは完全に崩壊するという予想外の事実を見出した。この結果は、葉序形成にはオーキシンとPIN1の相互制御だけでは十分ではなく、それに加えて未知の分子機構が存在することを強く示唆している。 一般に自己組織的なパターン形成において、拡散性分子が中心的な役割を果たしていることが知られている。そこで予測された未知の分子機構を明らかにするために、仮想的な拡散性分子(X)をモデルに導入し、オーキシン-PIN1ダイナミクスとの間に様々なフィードバック制御を仮定して、それらの葉序パターンに対する影響を数値シミュレーションにより網羅的に検証した。その結果、オーキシンがPIN1局在を直接的に制御するのではなく、拡散性分子Xを介して間接的に制御することにより、規則的パターンが回復できることを明らかにした。この結果は葉序パターン形成において、まだ発見されていない未知の拡散性分子の存在を強く示唆するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)オーキシンによるパターン形成ダイナミクスに関しては、概ね順調に進捗している。オーキシンはPIN1と協調することにより、2種類の自己組織的パターン、(i)極性輸送と(ii)オーキシンスポット(auxin maxima)を形成し、それらはそれぞれ非常に簡略化された数理モデルにより説明されている。しかしながら、それらは現象論的に構築されており、分子的な制御機構を考える上では必ずしも適切ではない。そこで今までに私は、より分子的制御機構を考慮したモデルの構築・解析を行なってきた。それにより(i)極性輸送パターンでは局所的オーキシンによるPIN1局在制御により、また(ii) auxin maximaパターンでは拡散性分子を介したオーキシンの間接的なPIN1局在制御により、それぞれのパターン形成を説明できることを示してきた。それぞれのモデルは、オーキシンによるパターン形成機構の理解において重要な示唆を与えるものである。 (2)花原基whorlパターン形成に関しても概ね順調に進捗しているが、オーキシンのパターン形成の研究を中心的に進めていたこともあり、一部遅れている部分がある。すなわち、シロイヌナズナでの実験結果から予測される制御ネットワークに基づいた数理モデルを構築し、数値シミュレーションにより野生型、および主な変異体の表現型の再現はすでに成功している。その一方で、whorlパターンの境界がシロイヌナズナのように明確ではなく、勾配を形成する場合に関しては検証が遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)オーキシンによるパターン形成ダイナミクス オーキシンとPIN1の相互制御により、極性輸送とオーキシンスポット(auxin maxima)の2つの自己組織的パターンが形成される。これらのパターンは常に単独で形成されている訳ではなく、興味深いことにはそれらの間に相互作用が行なわれている場合がある。例えば、葉原基や葉脈の形成過程において、最初にauxin maximaパターンが形成された後、そこから極性輸送パターンが形成されることが観察されている。この様なパターンの間の切り替えや相互作用により、それらが単独で機能する場合に比べて遥かに多様なパターンが創出される可能性がある。そこで、個々のパターン形成の分子的制御ダイナミクスの解明と同時に、これら2種類のモデルを融合させることにより、オーキシンパターンの切り替えの制御機構およびパターンの多様性創出の機構を明らかにすることを一つの目標にしたい。 (2)花原基whorlパターン形成 ABCモデル遺伝子群の発現パターンは必ずしも固定化されている訳ではなく、実際は時空間的にダイナミックに変化することが知られている。現在はすでに論文に報告されている情報を用いてモデルを構築しているが、それらの情報は断片的であり、また重要な部分が欠けていたりもする。もし時空間的な発現パターンの詳細で網羅的な実験データが取得できれば、より精密な数理モデルの検証が可能になる。その様な実験データの取得を試みることも検討したい。
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Research Products
(6 results)