2016 Fiscal Year Annual Research Report
精巣の新生をも可能にするイモリPGCの運命決定とその維持機構
Publicly Offered Research
Project Area | Mechanisms regulating gamete formation in animals |
Project/Area Number |
16H01254
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Research Institution | Tottori University |
Principal Investigator |
林 利憲 鳥取大学, 医学部, 准教授 (60580925)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | イベリアトゲイモリ / 精巣 / 始原生殖細胞 / VASA遺伝子 / 配偶子形成 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、(1)イモリの始原生殖細胞(PGC)の決定様式の解明、(2)成体精巣の隣接した組織に存在するPGC様細胞の性質と精巣新生に対する寄与の解明、さらにその結果を基にした(3)イモリPGCの性質を支える遺伝子ネットワーク情報の整備である。これらを達成する為に、当該年度はPGCの形成に重要な役割を果たすことが予想されるVASA遺伝子について、人工ヌクレアーゼであるTALEN法を介したノックアウトイモリを作製した。得られたイモリについては、抗体染色により、VASAがノックアウトされたことを確認できたので、その表現型の解析に着手した。また、VASA遺伝子の発現制御機構の解析に必要な転写制御領域のクローニングを行い、その候補となる配列を得ることができた。PGC様細胞の性質と精巣新生については、研究を進める上で重要な基礎データを得ることを目指した。その結果、イベリアトゲイモリの精巣がどのような過程を得て発達して行くのか、生殖細胞が個体の生後のどの時期に分化するのかを示すことができた。また、PCG様細胞が精巣発達過程のどの時期に形成されるのかについても明らかにできた。これらに加えて、イモリPGCの決定機構やその性質を支える遺伝子ネットワークの情報を得る為に、イモリの配偶子や生殖巣のトランスクリプトーム情報の取得を行った。本研究の成果を基に学会等の発表を5件(全て招待演者または指定演者)行った。加えて、高校生を対象としたアウトリーチ活動を2件、市民公開講座を1件行い、研究の成果を広く紹介した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の計画を推進する為には、他の動物において、PGCの形成に重要な役割を果たすことが知られている遺伝子のイモリホモログをノックアウトできるか否かが鍵となる。当該年度は、重要な解析候補であるVASA遺伝子に付いて、TALENを用いた破壊を行った。その結果、効率よくVASAノックアウトイモリを作製することに成功した。これらのイモリについては、抗体染色の結果からも、実際にノックアウトできていることが確認された。これにより、来年度以降のVASAノックアウトイモリの表現型の解析を進めることができる。VASA遺伝子の機能を解明する為には、ノックアウト個体の表現型解析と併せてVASA遺伝子の転写制御機構を知ることが重要である。その解析に必要なゲノム配列の候補を取得しつつある。また、これまではイモリの遺伝子ノックアウト法としてTALENを用いてきたが、より簡便なCRISPR/Cas9を介したノックアウト法に移行する為の基礎実験を行い、実験条件を確立することができた。現在はVASA以外の解析候補遺伝子のノックアウトに必要な準備を進めている。成体精巣の隣接した組織に存在するPGC様細胞についても、イモリ精巣の発生(発達)過程を始め次年度以降の研究に必要な基礎的な情報を集めることができた。イモリPGCの性質を支える遺伝子ネットワーク情報の整備に関しては、イモリ受精卵、発生中の胚、未成熟または性成熟した個体の精巣と卵巣から抽出したRNAのトランスクリプトームデータの収集を進めることができた。これら結果から、本研究の計画は概ね順調に進んでいると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画の最終年である本年度は、昨年度までに作製したVASAノックアウトイモリ個体を使用して、その表現型、特に配偶子が正常に形成されるか否かを明らかにする。もし配偶子が正常に形成されるのであれば、それらの子孫となる個体を得て、PGCが正常に分化できるか否かを明らかにすること重点的に行う。他の候補遺伝子については、イモリにおけるCRISPR/Cas9の使用が可能になったことと、VASAノックアウト個体の解析から得た予備的知見を活用することで、複数の遺伝子の機能を迅速に解析することを目指す。成体精巣のPGC様細胞の機能については、PGC様細胞をあらかじめラベルする等したうえで、精巣の新生を誘起して、その寄与を明らかにする。また、PGC様細胞を含む組織を他のイモリ個体に移植することで精巣が形成されるか否かを示す。 イモリPGCの性質を支える遺伝子ネットワーク情報の整備に関しては、イモリ受精卵、発生中の胚、未成熟または性成熟した個体の精巣と卵巣から抽出したRNAのトランスクリプトームデータの収集を進めることができているが、今年度は他の研究者との共同研究により、トランスクリプトームデータの精度を向上させる。集めたトランスクリプトームデータについては、データベース化を行い論文として公開することを目指す。これは本研究を始め関連する分野の研究の進展に資するであろう。これと平行して、イモリ生殖細胞のプロテオーム解析にも着手することで、RNAとタンパク質双方の情報を整備する。このように、今年度の研究を推進する方針である。
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Research Products
(6 results)