2016 Fiscal Year Annual Research Report
霊長類の作業記憶を制御する神経回路と神経活動の解明
Publicly Offered Research
Project Area | Principles of memory dynamism elucidated from a diversity of learning systems |
Project/Area Number |
16H01293
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
肥後 剛康 国立研究開発法人理化学研究所, 脳科学総合研究センター, 研究員 (10396757)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 霊長類 / 前頭葉 / 作業記憶 |
Outline of Annual Research Achievements |
ヒトを含む霊長類の作業記憶は、広範な大脳皮質の中でも特に前頭葉が重要な役割を果たすことが多くのヒト脳損傷患者の心理学的研究、ヒト機能的磁気共鳴画像法、そしてサル脳の破壊実験によって示されている。その制御メカニズムとしては、前頭葉が投射を介して他領野の神経活動を制御するトップダウン制御が提唱されている。しかし、神経回路を直接操作する技術が霊長類で未開発なため、この仮説の検証は国際的に停滞している。
申請者は、この問題を解決するため、ヒトと近縁であり、ヒト脳との構造的、機能的相同性が高く、ストレスに強いため困難な認知課題の訓練に耐えられ、侵襲実験が容易なマカク属サルを用い研究を行った。具体的には、比較的長期の遺伝子発現を可能とするアデノ随伴ウイルスベクターを用い、大脳皮質内で最長投射の1つであるサル前頭前野と下側頭葉皮質TE野間において、遺伝子発現誘導を1個体内で繰り返しon/offする試みを行った。結果、シナプス情報伝達阻害分子であるテタヌストキシンの誘導にも成功している。しかし、TEへの手術ダメージが予想外に大きく、安定的なECoG記録が困難であることが判明したため、より大脳皮質への手術負担の少ないことが予想される両側運動前野に標的を変更した。結果、左右半球の運動前野間の交連投射における長距離神経回路において、Tet-Onシステムの遺伝子発現系の導入と予備的成果であるが情報伝達を遮断する事に成功した。F7へ標的を変更した理由は、領野の大部分が脳表面に出ており手術が容易なことに加え、前頭前野領野間投射に特徴的な分散的な特徴を持ち、強い交連投射を有するため、操作技術開発に最適な領野と判断したためである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
比較的長期の遺伝子発現を可能とするアデノ随伴ウイルスベクターを用い、大脳皮質内で最長投射の1つであるサル前頭前野と下側頭葉皮質TE野間において、遺伝子発現誘導を1個体内で繰り返しon/offする試みを行った。結果、シナプス情報伝達阻害分子であるテタヌストキシンの誘導にも成功している。しかし、TEへの手術ダメージが予想外に大きく、安定的なECoG記録が困難であることが判明したため、より大脳皮質への手術負担の少ないことが予想される両側運動前野に標的を変更した。結果、左右半球の運動前野間の交連投射における長距離神経回路において、Tet-Onシステムの遺伝子発現系の導入と予備的成果であるが情報伝達を遮断する事に成功した。F7へ標的を変更した理由は、領野の大部分が脳表面に出ており手術が容易なことに加え、前頭前野領野間投射に特徴的な分散的な特徴を持ち、強い交連投射を有するため、操作技術開発に最適な領野と判断したためである。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、以下の2項目を達成するため電気生理学実験をメインに行う。1、サル大脳皮質神経回路の投射特異的操作技術の確立。上述の投射特異的eTeNT融合GFP発現によって、実際に、運動前野背側前部間神経回路の情報伝達が操作されるかを電気生理学的に確認する。発現系をAAVによって導入した一側F7に刺激電極を挿入し、電気刺激によって神経活動を発生させた後、反対側F7に設置したECoG記録電極において下降した神経活動を検出する。この実験をDox投与前後で行い阻害の程度を比較検討する。2、サル大脳皮質神経回路による高次脳機能制御メカニズムの解明。上記の技術確立をうけ、作業記憶評価課題であるウィスコンシンカード分類課題を長期訓練したサルに発現系を導入し、課題遂行中に電気生理学的解析と行動解析を行うことで、作業記憶の制御メカニズムを明らかにする。
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