2016 Fiscal Year Annual Research Report
ヒストンH2AXの交換反応を介した損傷クロマチンダイナミクス
Publicly Offered Research
Project Area | Dynamic chromatin structure and function |
Project/Area Number |
16H01307
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
井倉 毅 京都大学, 放射線生物研究センター, 准教授 (70335686)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ヒストンH2AX / クロマチンダイナミクス / TIP60 / ヒストンシャペロン |
Outline of Annual Research Achievements |
TIP60ヒストンアセチル化酵素複合体とTIP60と結合するヒストンシャペロンとのFeedback制御によるヒストンH2AのバリアントであるH2AXの交換反応の促進が、クロマチンの弛緩とDNA損傷応答関連因子の集積という一見、相反する事象を同時に行うことを可能にし、このクロマチンの動的制御が、細胞周期S期での相同組み換え修復の選択に必要であることを明らかにした。本課題では、H2AXのacidic patch領域に着目し、この領域に結合する因子を同定することにより、DNA損傷領域でH2AXの交換反応が、どのように高次レベルでクロマチン構造を弛緩させるのかを明らかにする。さらにH2AXの交換反応と細胞核内の配置、特にPML bodyなどの核構造との関係についても検討を加え、H2AXの動的な変化が染色体ダイナミクスに与える影響を探ることを目的とする。 本年度は、タンパク質複合体精製のためのH2AXの発現細胞及びクロマチン免疫沈降に用いるDR/GFPカセットを導入した細胞にLANA遺伝子を導入し、安定発現細胞株を樹立した。LANAを発現させた細胞からH2AXを複合体として精製し、H2AXのacidic patchに結合すると考えられる候補因子の同定に成功した。さらにin vitroでこの候補因子とH2AXとの結合を確認した。 またバイオレイヤー干渉法を用いて、TIP60とヒストンシャペロンとの結合を検討し、これら因子の結合にはH2AXの存在は必要不可欠であることが明らかになり、これまでのin vivoでの実験結果をin vitroの再構成実験で検証することに成功した。またこのバイオレイヤー干渉法を用いた再構成実験により、TIP60によるH2AXのアセチル化とヒストンシャペロンとの関係が明確になった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
タンパク質複合体精製のためのH2AXの発現細胞及びクロマチン免疫沈降に用いるDR/GFPカセットを導入した細胞にLANA遺伝子を導入し、安定発現細胞株の樹立に成功した点と、さらにLANAを発現させた細胞からH2AXを複合体として精製し、H2AXのacidic patchに結合すると考えられる候補因子の同定に成功し、in vitroでこの候補因子とH2AXとの結合を確認した点は当初の予定どおりである。この因子のノックダウン細胞を用いてのH4のアセチル化の検討やFRAPとmicro-irradiationを用いた実験については、やや遅れているが、当初予定していた実験は、ほぼ終了し、遅れている実験に関してもその準備は終了している。また今回、バイオレイヤー干渉法を立ち上げ、これまでタンパク質複合体解析やFRAP解析などで得たin vivoの実験結果を再構成実験によって検証した。その結果、TIP60とヒストンシャペロンとの結合にはH2AXの存在が必要不可欠であることが明らかになり、これまでのin vivoでの実験結果をin vitroの再構成実験で検証することに成功した。またこのバイオレイヤー干渉法を用いた再構成実験により、TIP60によるH2AXのアセチル化とヒストンシャペロンとの関係が明確になった。これらのことからおおむね実験計画は、順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、H2AXのacidic patchに結合すると考えられる候補因子ののノックダウン細胞を用いてのH4のアセチル化の検討やFRAPとmicro-irradiationを用いて、ヒストンシャペロンの損傷クロマチンとの結合ダイナミクスを検討する。TIP60のアセチル化変異体を発現させた細胞あるいはH2AXのアセチル化を抑制した細胞を用いた時のヒストンシャペロンの損傷クロマチンとの結合ダイナミクスへの変化が同様であるか否かを検証する。これによりTIP60によるH2AXのアセチル化が、高次クロマチン構造変換を介していることが示唆できると思われる。また当初予定していたLANAタンパク質が、H2AXのacidic patchに結合できないH2AXの変異体遺伝子を発現させた細胞の樹立も行い、損傷領域でのH4のアセチル化の増幅は阻害されるか否かについても検討を加える。 さらに我々は、制限酵素I-SceIで人工的にDNA二本鎖切断を一カ所誘導するカセットとその近傍にLacO配列をタンデムに導入した細胞を用いてDNA損傷領域をDsRed-Lac I で可視化する系を立ち上げているが、この系を用いて、1) TIP60あるいはH2AXのアセチル化を抑制した場合、2) 今回同定したH2AXacidic patch結合因子、あるいはヒストンシャペロンをノックダウンさせた場合、DNA損傷を受けた染色体とPML bodyとの共局在に影響を与えるか否かについて蛍光免疫組織学的解析で検討する。あるいは細胞核内での挙動について、コントロール細胞と比較して違いがあるのか、についてreal timeで軌跡を追うことにより検討する。これらの実験により、H2AXの交換反応とDNA損傷を受けた染色体の核内配置との関係を探る。
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