2016 Fiscal Year Annual Research Report
光操作技術を用いた記憶定着におけるアストロサイトの役割の解明
Publicly Offered Research
Project Area | Glial assembly: a new regulatory machinery of brain function and disorders |
Project/Area Number |
16H01325
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
松井 広 東北大学, 医学系研究科, 准教授 (20435530)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | グリア細胞 / アストロサイト / 光遺伝学 / 記憶・学習 / 細胞内イオン濃度 |
Outline of Annual Research Achievements |
全ての経験は、少なくとも一時的には自動的に記憶される。例えば、今日の朝食の内容は、大抵はその日のうちなら覚えているであろう。朝食からある程度時間が経っていても、なお、記憶が残っているということは、電気的信号が脳回路を回り続けることによって記憶が維持されているというより、朝食のように取るに足らないイベントに対しても、回路自体に何らかの可塑的変化がトリガーされていることを示唆する。従って、脳回路は、常にダイナミックに変化し続けていることになるが、何が、残る記憶と消えていく記憶とを分けているのであろうか。本研究では、グリア細胞による神経信号の増幅があって、初めて、定着する記憶が生まれるという仮説を検証する。 本研究では、光遺伝学の利用を通して、グリアの作用と記憶の形成の関係を明らかにすることを目的とする。これまで、グリア活動の光操作によって、学習や記憶過程をいかようにも制御できることが明らかになってきた。グリアの作用としては、1)神経信号を受け取って、その信号を増幅する作用、および、2)神経信号をシャットダウンする作用などが考えられる。1)の作用に関しては、光遺伝学を使って、グリア細胞のうち、アストロサイトの状態を操作すると、この神経信号増幅作用を亢進したり、抑制したりすることができることが明らかになった。特に、グリアに発現させたArchTを光刺激すると、グリアが本来持っている、神経信号増幅作用が抑制されることが明らかになった。また、2)についても新たな発見があった。1)では、光遺伝学を使って、グリアの興奮性の作用を増減させていたが、グリア細胞の持つ抑制性の作用を発見し、光遺伝学によって、この抑制性伝達物質の放出させることに成功したわけである。これらの発見を元に、次年度は、グリア作用がシナプス可塑性などに影響を与え、学習や記憶に影響を与える可能性を検証する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
これまでの研究では、グリア活動が暴走する虚血状態での病態モデルを研究し、グリア作用を強力に惹起する細胞内pHに注目してきた。本研究では、病態時だけでなく、健常時の学習・記憶過程でも、程度の差こそあれ、基本的に同じ原理のグリア作用が稼働していることを検証する。そこで、生来のグリア細胞の内、アストロサイトの細胞内のpHが、神経活動に応じて刻々と変化し、学習課題中のアストロサイトの状態次第で、神経信号の増幅作用が亢進されたり、抑制されたりしている可能性を調べる。具体的には、生きているマウス脳内に光ファイバーを挿入して、アストロサイト細胞内イオン濃度を計測する。既に、前年度の研究によって、細胞質内に赤色pH蛍光センサー、細胞膜に緑色pH蛍光センサーを発現する遺伝子改変マウスの開発に成功している。 また、アストロサイトに発現させたArchTを光刺激をすると、アストロサイトが本来持っている、神経信号増幅作用が抑制されると考えられる。したがって、もし、この刺激で学習成績が落ちるとすれば、生来のアストロサイトには神経信号増幅作用があって、それによって記憶が定着するという仮説が支持される。これらの仮説を、水平視機性眼球運動学習や恐怖条件付け学習パラダイムを用いて検証する。特に前者については、眼球位置を高速かつ正確に補足するシステムが必要となるが、前年度内でこの開発はほぼ済んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、アストロサイトの作用を自在に操作する光遺伝学の利用を通して、アストロサイトの作用と記憶の形成の関係を明らかにする。アストロサイトの作用としては、1)神経信号を受け取って、その信号を増幅する作用、2)神経信号をシャットダウンする作用、3)アストロサイト作用そのものの長期可塑性によって、神経活動を定常的に抑制する作用、4)アストロサイト活動賦活化によるシナプス貪食作用の惹起、5)アストロサイト作用により誘導される神経新生、などが考えられる。前年度の研究では、主に1)2)の作用を、急性スライス標本を用いて検証してきた。次年度は、生きているマウスを使って、学習・記憶におけるアストロサイトの役割を探るため、アストロサイト活動の光計測・光制御法を併用して活用する。進捗に余裕があれば、さらに、3)~5)の作用についても検証したい。
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Research Products
(15 results)
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[Presentation] 精神は機能だ2016
Author(s)
松井 広
Organizer
伊香保BSの会
Place of Presentation
群馬大学刀城会館(群馬県)
Year and Date
2016-09-13 – 2016-09-13
Invited
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