2016 Fiscal Year Annual Research Report
腸管寄生原虫“脂肪酸代謝”の特殊性の解明―寄生適応戦略について―
Publicly Offered Research
Project Area | Quality of lipids in biological systems |
Project/Area Number |
16H01365
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Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
見市 文香 (三田村文香) 佐賀大学, 医学部, 助教 (70576818)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 腸管寄生原虫 / 含硫脂質代謝 |
Outline of Annual Research Achievements |
寄生虫を対象とした生命現象解明への取り組みは、地球規模で甚大な被害をもたらしているその脅威から、感染症治療への展開がクローズアップされがちであるが、実は、寄生虫が呈する「寄生適応」という、宿主内環境への適応が生む特殊な生命現象は、生物学的多様性を理解する上で解明すべき重要な課題である。 寄生虫は、宿主体内環境の大きな変動に適応することがその生存に必須である。我々が研究対象としている脂質代謝では、寄生虫側の合成経路の欠失、脂質供給の宿主への完全依存、さらには寄生虫特異的な代謝系の発達、などの特徴が見られる。これまでに我々は、赤痢アメーバを題材として“「含硫脂質代謝」と「寄生適応」との関連を示す研究”を継続してきており、本研究ではこれまでの成果の発展的展開を図ることを目的に研究を開始した。 硫酸代謝は生物界に普遍的に存在する重要な代謝経路である。赤痢アメーバのゲノム上には、脂質から含硫脂質合成を担う硫酸基転移酵素(SULT)遺伝子が10種類コードされている。そのうちの1つ(SULT6)がコレステロール硫酸基転移酵素であることを見出しているが、残りのSULTについては機能未知であった。一方、含硫脂質の分解を担うスルファターゼ(SF)遺伝子が、赤痢アメーバのゲノム上に5種類コードされているが、その機能は解明されていなかった。今回、SULTおよびSFの遺伝子発現抑制株を作製、含硫脂質の合成能を解析した結果、それぞれの産物を同定することに成功した。また新規含硫脂質の構造を同定、さらには、この分子が栄養体期の原虫の生存に必須な分子であることも見出せ、赤痢アメーバの含硫脂質代謝の全体像、ならびにその重要性を示すことに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
これまで不可能であった複数遺伝子発現抑制株を作製する方法を確立したことで、硫酸基転移酵素(SULT)遺伝子およびスルファターゼ(SF)遺伝子と産物との対応付けを可能にすることができた。また、新規含硫脂質の機能解明も成功してした。これらにより、赤痢アメーバの含硫脂質代謝の全体像の解明を行うことができており、今後多種生物への応用も可能であると期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
赤痢アメーバの含硫脂質代謝の全体像、ならびにその重要性をしめすことに成功しており、今後は個々の酵素群の解析を進めていく。赤痢アメーバの硫酸基転移酵素(SULT)およびスルファターゼ(SF)は遺伝子水平伝播によって獲得したことを見出しており、宿主であるヒトのそれと大きく異なり、その性質はほとんど解析されていない。その性質の解明を進める。同時に、赤痢アメーバで見出した含硫脂質代謝の全体像をトキソプラズマなど他生物種への応用を試みることで、“「含硫脂質代謝」と「寄生適応」との関連を示す研究”の一般性を明らかにする。
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Research Products
(5 results)