2016 Fiscal Year Annual Research Report
鳥類精子形成の耐高温戦略の解明
Publicly Offered Research
Project Area | Integrative understanding of biological phenomena with temperature as a key theme |
Project/Area Number |
16H01398
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Research Institution | National Institute for Basic Biology |
Principal Investigator |
中村 隼明 基礎生物学研究所, 生殖細胞研究部門, 特別研究員 (30613723)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 鳥類 / 精子形成 / 温度感受性 |
Outline of Annual Research Achievements |
ほ乳類の精巣は、腹腔で発生した後に陰嚢へ下降して低温(約32-34度)環境下で精子を産生する。しかし、精巣が高温(約37度)の腹腔内に留まると精子形成は著しく障害される。これは、脊椎動物が恒温性を獲得することで活動性を飛躍的に増大する一方で、精子形成に何らかの問題に直面し、精巣を冷却する新しい器官(陰嚢)を作り出すことで解決したと解釈できる。しかし、同じく恒温性脊椎動物の鳥類では、精巣が腹腔内に留まったまま精子を産生する。現在の定説では、鳥類の精巣は高温環境下にあるとされており、脊椎動物の精子形成の温度感受性を理解する上での大きなパラドックスとなっている。しかし、先行研究では生理条件下での精巣温が測定されていないなど課題が残されている。そこで、平成28年度は、鳥類の精子形成は高温環境下で進行するとする定説を再検討した。生理条件における鳥類精巣温を正確に測定するために、マイクロチップをニホンウズラ精巣および腹腔内に外科的手術により留置した。回復後、長日環境下で飼育し、非侵襲的にマイクロチップの温度を測定した。その結果、精巣の平均温度(42.0度)は、腹腔内の平均温度(42.5度)と比較して約0.5度低いことが示唆された。続いて、鳥類独自の呼吸器官である気嚢が精巣温を調節する可能性について検討するために、気嚢領域のガス交換を阻害する手術を施した。回復後、長日環境下で飼育し、マイクロチップを用いて精巣温の変化を非侵襲的にモニターした結果、気嚢は精巣を約0.5度冷却する効果があるが、精子形成には影響を及ぼさないことが示唆された。以上より、鳥類の精子形成は定説通り高温環境下で進行し、温度感受性を持たないことが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、最新の温度プローブを用いて、平常呼吸時のニホンウズラにおける精巣温を初めて測定し、鳥類精子形成が高温環境下で進行することを再確認した。また、鳥類の精巣温と精子形成における気嚢の関与について直接検討した結果、鳥類の精子形成は高温環境下で進行し、温度感受性を持たないことが示唆された。これらの結果から、これまでの鳥類精子形成の定説が正確に再評価され、本年度の実験指針を決めることができた。 これらの研究成果に基づいて、最終的な目標に向けておおむね順調に研究が進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度の研究成果が定説と一致し、鳥類の精子形成が高温環境下で進行することが示唆された。このことから、鳥類の精子形成は、ほ乳類にはない高温耐性メカニズムを持っていると考えられる。 したがって、本年度は、鳥類とほ乳類の間で精子形成の温度感受性の違いを生む分子機構の解明に挑戦する。鳥類 (ウズラ) およびほ乳類 (マウス) の精巣を、高温でも生殖細胞の脱落が起こらない短時間 (マウスでは1~2 日程度) 培養する。次世代シーケンサを用いた網羅的遺伝子発現解析で温度に反応して発現の変化する遺伝子群を同定し、オーソログ解析によって種間比較する。特に、種間で温度反応性の異なる遺伝子群に注目し、これらが関連する機能のGO 解析・パスウェイ解析を通して、鳥類とほ乳類の精巣で異なる温度感受性の分子的基盤を解明する。 これと平行して、マウス精巣の器官培養系を用いて、ほ乳類の精子形成の温度感受性を直接検討する。続いて、マウス精子形成が高温で障害される分子基盤の解明に取り組む。 以上の研究により、恒温動物が示す精子形成の耐高温戦略の分子メカニズムの解明に挑戦する。
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