2016 Fiscal Year Annual Research Report
MRIハイパースキャニングを用いた二人称視点・間主観性による共感の神経基盤研究
Publicly Offered Research
Project Area | Empathic system |
Project/Area Number |
16H01486
|
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
田邊 宏樹 名古屋大学, 環境学研究科, 教授 (20414021)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 認知神経科学 / 社会脳 / 脳機能イメージング / 社会的相互作用 / 間主観性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、自分が他者と直接的に関わる二人称視点や間主観性を意識した共感の実験パラダイムを構築することにより、よりリアルな状態での共感性の神経メカニズムを捉えることである。実際の共感がおこる場面では、特定の対象としての「あなた」と「私」の関係という「二人称視点」をもち、実時間での「双方向性」と「同時性」を持つコミュニケーションの中にみられることが多い。また、今までの共感に関わるイメージング研究は共感する際の脳活動の探索が主であり、共感される側や二人が共感し合った際の神経基盤についてはよく分かっていなかった。そこで本研究では、ハイパースキャニング(機能的MRIの二台同時計測)を用いて、共感の基礎的過程の神経メカニズムを、二人称視点・間主観性の観点から明らかにすることを目指し研究をおこなっている。 我々はこれまでの研究で二者が1つのモノや側面に注意を共有する(いわゆる共同注意)際の神経基盤を検討してきており、今年度はその課題デザインをベースにした、共同注意の延長線上にある情動の共有の課題の設計をおこなった。具体的には、MRIの中で二者が呈示されたモノに関する単語についての好き/嫌いを互いに表明し、その際にどのくらい相手と共感できたかについても問うものである。呈示する単語は、NTTデータベースより抽出した350単語を、WEB調査にて400名の被験者に好き嫌いのレーティングをしてもらうことにより選定した。それと平行し、fMRI実験の刺激提示プログラムを作成しほぼ完成の段階まで来ている。共感の前段階である情動共有の神経基盤を見るための実験のデザインの作成に少し時間がかかってしまったため、今年度中にfMRI実験を遂行することはできなかったが、刺激プログラムまで完成したため、来年度初頭には行動実験を行い、その結果をみてfMRIの本実験に進む予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初は、共通の情動体験を通して互いに共感を共有した状態前後の両者の繋がりが脳活動の同調の違いとして現れるかどうかについて検討する予定であった。それは我々がおこなったこれまでの研究で、両者が協力的行動を通して共有した意志を持つ相手とリアルタイムに相互作用した際に脳活動の同調が高まることをベースにしていた。しかしながら、研究協力者との話し合いの中で、たとえ情動を共有した状態の二者であっても、同期を引き起こすトリガーがない状態(ここが先行研究とは異なる)では脳活動の同期が見られる可能性が低いこと、また我々のグループの他の実験で、これに似たパラダイムを用いて脳活動の同期を見たところ、ほとんど脳活動の同期のペア特異的な増強が見られなかったことから、実験パラダイムを再考することになった。そこで、これまでの我々の研究で二者が1つのモノや側面に注意を共有する(いわゆる共同注意)際の神経基盤研究を発展させ、そこでの課題デザインをベースにした、共同注意の延長線上にある情動の共有の課題を作成し、それを用いたハイパースキャニングfMRI実験を実施することにした。このような事情から、当初の計画よりもやや遅れた進捗となっているが、すでにWEB調査にて400名の被験者に好き嫌いのレーティングをしてもらうことにより、実験で用いる単語の選定は終了し、fMRI実験の刺激提示プログラムもほぼ完成した。来年度は最終年度でもあるので、なるべく早くにfMRI実験を開始し、収集したデータの解析に取りかかる予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度研究を始めるにあたり、二者が共有する共感性を具体的にどのように見ていくかについてもう一度吟味し、当初の実験計画を一部変更し、共同注意課題をベースとした二者の共感する・される際の脳活動領域の同定と共感が起こっている際の両者の脳活動の同調について、行動実験とfMRI実験の両面から検討することにした。共同注意はインターラクションする二人が同じ‘もの’に注意を向ける現象であるが、実際にはその‘もの’に対する感情のやりとりがあることがしばしばある。そこで我々は、共同注意の延長線上にある‘もの’に対する感情の共有を実験パラダイムとして成立させるため、視覚提示と両者のことばのやりとりを使って、呈示された‘もの’への好き嫌い感情をお互いに共有できる実験課題を作成した。この実験パラダイムでは、両者の‘もの’への好き嫌いに加え、「お互いにどのくらい共感できたか」や「二人の共有感」などの指標も同時に取得し、主観的な共感の度合いと脳活動の関係についても調べられるよう工夫した。今後は、まず fMRI実験の前段階として、この課題の詳細な実験パラメータを行動実験により同定する。現在申請者が所属する名古屋大学の実験室に行動実験用のシステムを構築中であり、画像ミキサーが準備できれば実験可能となる。その後ハイパースキャニングfMRIを用いて、上記課題により相手から共感された際の脳活動や相手に共感する際の脳活動を計測すると共に、共感状態が続く状態の二人の脳活動の同調についても検討する。実験では、二人の共感の状態や相手の心の状態の忖度などについても1試行毎に回答してもらい、それらの指標を用いることで多角的に共感の共有状態を検討し、神経基盤との関わりについても調べる。そして可能であれば、より時間分解能が高い脳波計を用いた同様の実験を行う。これにより、間主観的な共感性の基礎的過程の神経メカニズムの解明を目指す。
|
Research Products
(5 results)