2016 Fiscal Year Annual Research Report
高精度タンパク質固体NMRの圧縮センシング測定法開発
Publicly Offered Research
Project Area | Initiative for High-Dimensional Data-Driven Science through Deepening of Sparse Modeling |
Project/Area Number |
16H01526
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
出村 誠 北海道大学, 先端生命科学研究院, 教授 (70188704)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 固体NMR / 圧縮センシング / タンパク質 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、圧縮センシングを応用した高精度タンパク質1H固体NMR測定方法の開発である。具体的には固体NMRデータ処理に特化した圧縮センシング法と、データ分解能を高めるために測定帯域を効率的に絞り込めるNMR測定法を開発することで、高精度測定の実現を目指す。
データのスパースさの指標であるL1ノルムを最小化するようデータを補間するアルゴリズムNESTAを固体NMRデータ処理に適用した。モデルタンパク質の3次元固体NMRスペクトルについて、従来法で必要なデータの20~30%からスペクトルを復元することに成功した。測定法についても、タンパク質の大部分を占める脂肪族13Cの帯域のみを観測するNMRパルスプログラムの作成が完了した。13Cの信号帯域幅は約200ppmであり、脂肪族はその内の約80ppmであるため、帯域を60%削減することができた。これにより高分解能データが得やすくなる。例えば、タンパク質側鎖の解析で信号帰属に有用である三次元13C-13C-1H相関測定では両者の組み合わせにより、13Cの全帯域を均一データサンプリングする場合と比べて10%以下の測定時間でデータを得ることができる。
さらに、モンテカルロ積分を応用した高次元スペクトル処理方法を開発し、データ間の共分散に基づいて複数のスペクトルを高次元空間上に統合する共分散NMR法に応用した。データ量がテラバイトにおよぶ6次元スペクトルを、ノートPCを用いて数分程度の時間で処理することに成功した。提案法で得られたデータに基づきモデルタンパク質GB1の主鎖原子帰属にも成功した。提案法は高速フーリエ変換に基づく圧縮センシングアルゴリズムでは処理困難な高次元測定データの信号復元にも有効であると考えられる。このスペクトル処理方法については成果を国際誌に投稿する準備を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の骨子は、タンパク質1H固体NMRスペクトル測定の高精度化をパルス系列の開発と圧縮センシング、すなわち実験とデータ処理の側面から進めることである。パルス系列の開発は、研究開始時点では標準試料では順調に進んでいたものの、タンパク質測定では信号が観測できず原因特定に時間を要した。そのため、圧縮センシングの手法開発に必要な基礎データの収集が遅れてしまった。圧縮センシングにより10%まで測定点を間引くことを研究目標に掲げているが、現時点では20~30%程度までの削減にとどまっておりアルゴリズムの改良が必要である。ただし、現時点でも測定法の改良と合わせて10%以下まで測定時間を短縮可能であり、従来では数十日かかる測定を数日以内と現実的な時間に収めることができる。
測定トラブルの原因究明の間、新規の高次元スペクトル処理技術の開発を進め、モデルタンパク質解析でその有用性を実証できた。提案法はNESTAやFISTA等、現在広く使われている圧縮センシングアルゴリズムが適用困難な高次元スペクトルのデータ復元処理にも応用できる可能性がある。この成果はスパースモデリング研究で幅広く使われているモンテカルロ積分をNMRデータ解析に応用したものであり、スパースモデリングがNMR分光法の発展に重要であることを改めて示したと考えている。
以上の通り、圧縮センシング法の開発について遅れが生じているものの、測定法や新規データ処理法の開発による応酬によって一定の成果を得たと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度の研究によって、現実的な測定時間で高分解能スペクトルを測定できる目処が立ったため、今後は開発した手法の有用性実証に移行する。具体的には固体NMR測定・解析のモデルとして広く用いられているタンパク質GB1の立体構造解析をおこなう。立体構造解析では数百から数千におよぶ1Hスピン間相関信号を識別する必要があるため、スペクトルの分解能が解析精度を大きく左右する。つまり、構造解析は圧縮センシングの有用性を示す最適なモデルケースである。高分解能データを得るには試料調製方法の最適化も必要である。前年度に行なった予備測定において、構造解析に耐えうるスペクトルを測定するためにはタンパク質の重水素化が必要であることが判明した。無細胞タンパク質合成を用いることで、試料調製の迅速化を図る。
また、圧縮センシングの性能を高めるために、NMRの測定原理に基づいたデータ処理手法の開発を行い、性能向上を目指す。NMR信号は時間領域において減衰振動モデルで記述できる。従来の圧縮センシングでは信号減衰をフーリエ基底の重ね合わせで表現している。減衰振動モデルを信号補間にNMRの測定原理を組み込むことで、スパース性が向上すると考えられる。これにより信号復元能力の改善を目指す。ただし、フーリエ変換と比べアルゴリズムが不安定になることが予想されるため、堅牢性の評価が不可欠である。そこでNMR測定で想定される様々な信号を網羅的にシミュレートすることで評価を行い、良好な結果が得られた場合は上記のタンパク質構造解析に応用する。
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Research Products
(1 results)