2016 Fiscal Year Annual Research Report
北太平洋西部亜寒域における海洋中規模渦の物質循環・低次生態系への影響の解明
Publicly Offered Research
Project Area | Ocean Mixing Processes: Impact on Biogeochemistry, Climate and Ecosystem |
Project/Area Number |
16H01584
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
上野 洋路 北海道大学, 水産科学研究院, 准教授 (90421875)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 北太平洋西部亜寒帯域 / 海洋中規模渦 |
Outline of Annual Research Achievements |
北海道大学附属練習船おしょろ丸2016年度60日航海レグ2において、北太平洋西部亜寒帯域に存在する海洋中規模渦(渦A・Bとする)の断面観測を実施し、その物理・化学・生物データの取得を行った。海洋中規模渦の断面観測においては、物理観測としてCTD(水温塩分深度)観測および乱流観測を実施、観測点間において、Underway CTD(曳航式水温塩分深度)観測およびXCTD(投棄式水温塩分深度)を実施し、海洋中規模渦の高解像度データを取得した。H28年度は、高解像度のUCTDデータを中心に解析を行い、以下のことを明らかにした。渦Aは、5年以上前に形成され、観測直前に減衰・分裂した渦であった。この渦においては、亜表層に渦外水が貫入したような構造が見られ、渦の減衰、分裂に伴う渦内外水塊の混合の一端を捉えることに成功した。渦Bは、観測海域で形成された比較的新しい渦であったが、観測海域とは異なる水塊を内部に保持していた。また、渦A、B共に水平20 km程度のサブメソスケール構造が観測された。その構造はクロロフィル蛍光度の強弱とよく対応しており、サブメソスケール構造の生物生産への影響が示唆された。 船舶観測の実施、その観測データの解析に加えて、アリューシャン列島南岸付近に起源を持つアリューシャン渦の物理的性質とその生物生産への影響に関するデータ解析を実施した。その結果、アリューシャン渦は、4℃以上の比較的高温の水塊を渦中心付近の亜表層~中層に保持しており、渦外よりも顕著な水温極大構造を形成していることが示された。また、アリューシャン列島に比較的近い海域では、沿岸の高栄養塩・高クロロフィル濃度の海水を水平移流することにより、生物生産の増加をもたらしているが、その外洋域では、生物生産に対して負の影響をもたらしていることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
海洋中規模渦は、鉄などの微量栄養物質の北太平洋亜寒帯域表層への供給過程の一つと考えられている。北太平洋亜寒帯域の海洋中規模渦は、主に沿岸域で形成される。そのため、沿岸付近に存在するときには、その外縁の沖向き流によって沿岸の微量栄養物質を外洋に輸送し、外洋域の生物生産を高めていると指摘されている。また、海洋中規模渦内外において湧昇・沈降が起こることにより、亜表層の主要栄養塩や微量栄養物質が表層に供給され、外洋域の生物生産を活発にしていると考えられている。本研究では、衛星海面高度データ・アルゴ水温塩分データ・衛星クロロフィルデータ等のデータ解析とおしょろ丸による海洋中規模渦の詳細な船舶観測を併せて実施し、海洋中規模渦の変動の実態および混合過程への影響を把握することにより、北太平洋西部亜寒帯域における海洋中規模渦の物質循環・低次生態系への影響の解明を目指している。 H28年度には、おしょろ丸による海洋中規模渦の横断観測を実施した。計画を策定した1年前には十分な強度を保っていたターゲット渦が観測の半年くらい前から弱化、分裂したことはやや想定外であったが、渦の分裂・消滅過程の一部を観測することができたこと、隣接する比較的強い中規模渦を観測できたことから、計画段階に近いデータを取得できたと考えている。そのデータ解析は全て終わっていないが、分裂した渦においては、亜表層に渦外水が貫入したような構造が見られ、渦の減衰、分裂に伴う渦内外水塊の混合の一端を捉えることができた。今後、主要栄養塩、鉄、乱流データなどを解析することにより、海洋中規模渦が生物生産に影響を与えるメカニズムを明らかにする計画である。アリューシャン列島南岸付近に起源を持つアリューシャン渦の物理的性質とその生物生産への影響に関するデータ解析に関しても渦の生物生産への影響の海域による違いが明らかになるなど、概ね順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
H28年度は、約1ヶ月にわたる海洋観測を実施し、取得したデータのうち、水温、塩分、クロロフィル蛍光度の微細構造解析を実施した。その結果、サブメソスケール構造に関して多くの新しい知見を得ることができた。H29年度は、さらに主要栄養塩、鉄、乱流データなどの解析を行うことにより、海洋中規模渦が北太平洋西部亜寒帯域の物質循環、低次生態系に対して果たす役割を明らかにしてゆきたい。特に、鉄、乱流データに関しては、当該海域の海洋中規模渦内で取得した例は今までになく、UCTDによる微細構造の観測結果と併せて解析することにより、海洋中規模渦が北太平洋西部亜寒帯域の物質循環、低次生態系に影響を与えるメカニズムの解明が進むものと期待される。また、H28年度に解析したUCTDデータに関しても、より詳細な検討を行う計画である。特に渦の中心付近に保持されている水塊、また、渦の中心付近に貫入してきているように見える水塊がどのような起源を持っているかを把握することにより、渦が北太平洋西部亜寒帯海域における海水混合に対して果たす役割を明らかにしていきたい。 衛星海面高度データ解析に関しても、引き続き解析を実施していく予定である。H28年度は、渦検出プログラムの開発などを行い、平均的なアリューシャン渦の描像を明らかにした。例えば、アリューシャン渦はその中心付近に4℃以上の水温極大水を保持していることや、同じアリューシャン渦でも海域によってクロロフィル濃度分布に与える影響が異なるという結果が得られている。H29年度は、平均的描像をさらに明らかにするとともに、経年変動に関する研究を実施する計画である。具体的には、北太平洋西部亜寒帯海域における生物生産の経年変動へのアリューシャン渦の寄与を明らかにしたい。
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Research Products
(3 results)