2016 Fiscal Year Annual Research Report
黒潮再循環域の表層・亜表層における生物地球化学的循環の解明
Publicly Offered Research
Project Area | Ocean Mixing Processes: Impact on Biogeochemistry, Climate and Ecosystem |
Project/Area Number |
16H01594
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Research Institution | Japan, Meteorological Research Institute |
Principal Investigator |
石井 雅男 気象庁気象研究所, 海洋・地球化学研究部, 室長 (70354553)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 黒潮再循環 / 海洋生物地球化学 / 酸素極大層 / 硝酸躍層 / 人為起源二酸化炭素 |
Outline of Annual Research Achievements |
気象庁が1964年5月から2016年8月までの52年余りの期間に観測船で実施した1,166航海、59,163観測点の海洋各層観測のデータセットを加工し、さまざまな物理・化学の誘導変数や、それらのポテンシャル密度内挿値、栄養塩躍層深度、酸素極大層深度などの情報を含むデータベースを作成した。 このデータベースを用いて、房総半島南東の黒潮再循環域における混合層深度の季節変化や、夏に新生産によって形成されると考えられる亜表層の酸素極大層の深度と硝酸躍層の関係などを調べた。その結果、深い冬季混合層(~400m)が形成される北緯29度から黒潮続流の間の海域では、硝酸躍層が酸素極大層と概ね一致するか、それより上層にあることから、冬季混合時に混合層内にあった栄養塩類が、春から夏に表層から消費されて行く過程で、酸素極大層が形成されると考えられる。しかし、このメカニズムだけでは冬から夏にかけての栄養塩枯渇下の表層の全炭酸濃度の低下は説明できないことが分かった。一方、北緯20度~25度付近の黒潮再循環南部では、硝酸躍層が酸素極大層よりも25mから75m深い層にあり、鉛直一次元的なメカニズムでは、表層における全炭酸濃度の季節変化だけでなく、酸素極大層の形成も説明できないことが分かった。 また、この海域のさまざまな等密度面上で、2010年以降に測定が行われている全炭酸濃度の変化を調べたところ、ポテンシャル密度26.0より浅い各層においては、その人為起源CO2成分が、1994年以後、20年余りに亘って全炭酸濃度の観測が行われている東経137度における人為起源CO2成分の増加と同様に増加していることが分かった。このことから、黒潮続流の南の冬季混合深度が変化する海域で形成される亜熱帯モード水が、人為起源CO2を海洋の表層から黒潮再循環内部へ輸送する重要な役割を担っていることが裏付けられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までに、黒潮再循環域とその周辺域における生物地球化学的循環の変化に関するデータ解析の基盤となるデータベースを作成できた。当初計画では、房総半島南東海域を対象としたデータベースを作成する予定だったが、先行研究でのデータベースの作成経験を活かして、気象庁が1964年5月から2016年8月の52年余りに西部北太平洋で実施した海洋各層観測のデータすべてを対象とした加工データベースの作成を終えることができた。 海洋観測については、5月~6月に小笠原諸島近海で水中グライダーによる水温・塩分・酸素・クロロフィル濃度の観測に成功したほか、12月には学術研究船白鳳丸KH-16-7次航海に参加し、黒潮再循環南部の北緯23度線付近や、沖縄本島西方のケラマギャップ付近で、海洋炭酸系などの採水・観測を計画通りに実施できた。これらの気象庁観測とは異なる季節・海域で取得したデータや、季節内変化の観測データは、黒潮再循環域の生物地球化学循環に関する今後の解析に役立てる。 作成したデータベースによる物質循環の解析にも着手し、計画したように房総半島南東沖の黒潮再循環を対象として、硝酸躍層と酸素極大層の関係や、人為起源CO2の蓄積動向について評価を進めている。表層水のCO2変動の解析についても、東経137度のほか、東経165度を対象とした解析を進めており、CO2分圧と全アルカリ度の時系列的な観測値に基づいて、水素イオン指数や炭酸カルシウム飽和度の低下速度の評価を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度作成した気象庁の海洋各層観測データのデータベースや、学術研究船白鳳丸や水中グライダーによる観測で取得したデータなどを活用して、沖縄近海から東経165度にかけての黒潮再循環域広域やその周辺海域に解析対象域を広げ、引き続き生物地球化学的循環の実態解明を進める。具体的には、 ○ 海洋観測の実施:平成29年10月~12月に計画されている白鳳丸KH17-6次航海に参加し、本州の東方(東経148度)や南方(北緯28度)にて、海水中の炭酸系や溶存酸素などの海洋観測を行ない、それらの観測データを生物地球化学循環の解析に活用する。4月~6月に小笠原諸島近海で計画している水中グライダー観測のデータを活用する。 ○ 表層や亜表層の炭酸系パラメーターの分布や季節変化、年々変化、長期変化を評価し、人為起源CO2の蓄積や、海洋循環の変化など、それらの変化要因を解明する。 ○ 亜表層の溶存酸素・栄養塩変動解析:夏季に亜表層に出現する酸素極大層の水深分布やその硝酸躍層との関係など、夏季混合層下から水深数百メートル付近にかけての全炭酸・溶存酸素・栄養塩の濃度の海域分布と季節変化や、黒潮続流の流路変動に伴う経年変化などを明らかにする。
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Research Products
(7 results)