2016 Fiscal Year Annual Research Report
宇宙リスク管理のためのナノマイクロデバイスを用いたDNA損傷検出システムの開発
Publicly Offered Research
Project Area | "LIVING IN SPACE" - Integral Understanding of life-regulation mechanism from "SPACE" |
Project/Area Number |
16H01628
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
中村 麻子 茨城大学, 理学部, 准教授 (70609601)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | H2AX / PDMSチップ / DNA DSB / 線量評価 / リスク評価 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究計画では放射線被ばく線量評価を含めた総合的な宇宙リスク管理を現場で行うシステム作りにつながると期待されるPDMSチップの開発、そして宇宙線被ばくに対する線量評価バイオマーカーとしてのγ-H2AXの有効性検討を最終目的とし、本年度は以下に掲げる研究項目を実施し成果を得た。 1.「リン酸化H2AXを用いた放射線被ばく時の線量評価」: これまでに急性全身照射マウス(0.5Gy,1Gy, 2Gy, 5Gy)の血中リンパ球におけるDNA損傷レベルをγ-H2AXによってモニタリングした。その結果、線量依存的なDNA損傷レベルが照射直後だけではなくその後数日間検出されることが分かった。また、低線量率放射線の慢性被ばくに対するDNA損傷レベルの変化を様々なマウス臓器において検討した結果、いずれの臓器においても線量率依存的なDNA損傷レベルが検出され、一部の臓器では線量率効果が顕著に検出された。 2.「高LET放射線照射に対する定量バイオマーカーとしてのγ-H2AX評価」:高LET放射線照射後のDNA損傷レベルの変化をγ-H2AXによってモニタリングした。その結果、低LET放射線と比較してDNA損傷修復キネティクスの遅延が確認された。これは、高LET放射線によって生じた損傷がクラスター損傷と呼ばれる修復が困難な損傷であることを示している。 3.「DNA損傷モニタリングのためのマイクロデバイスの開発」:末梢血からリンパ球を分離するための微細構造の検討を行った。その結果、今回試作したものの中では細胞の固定構造の入口径が18μm、出口径が9μmにおいて最も効率よく細胞が固定された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究実施により低線量(率)放射線被ばくの生物影響をγ-H2AXアッセイによって評価することが可能であることが示された。さらに、宇宙放射線のような高LET放射線に対する被ばく線量評価についてもγ-H2AXアッセイは有用であることが示された。これらの結果は、γ-H2AXアッセイが宇宙放射線被ばくのリスク評価だけでなく、低線量(率)慢性放射線被ばくのリスク評価が行える有用なバイオマーカーであることを示す重要な知見であると考えられる。また、リンパ球を効率的に固定する微細構造を有するPDMSチップの開発を行い、具体的な改善点や改良点を明確化できた。PDMSチップ上に固定された細胞数は少ないものの、試作品を用いた予備的な免疫染色実験では細胞のγ-H2AXによる染色が成功していることが確認され、PDMSチップ開発が着実に進行していると考える。今後γ-H2AX アッセイ可能なPDMSチップを引き続き開発することにより、放射線事故現場や放射線治療現場におけるDNA損傷レベルの評価、最適な医療行為の選択が可能になると期待される。そして、本研究計画が目的とする「本研究は「宇宙に生きるためのリスク」を評価し、それに適切に対応するための方針を提言するための基礎基盤的知見を確立」するためには、今年度得られた結果は十分な意義があると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、放射線被ばく線量評価を含めた総合的な宇宙リスク管理を現場で行うシステム作りにつながると期待されるPDMSチップの開発、そして宇宙線被ばくに対する線量評価バイオマーカーとしてのγ-H2AXの有効性検討のために、以下に挙げる研究計画を遂行する。 1.血液からリンパ球を分離、固定、免疫染色を行うことのできるPDMSチップの改良・開発:現時点でのPDMSチップは微細構造への細胞(あるいはリンパ球細胞相当サイズの蛍光人工ビーズ)の固定効率が低いため、固定構造のサイズや間隔などを変更することで、より効率的にリンパ球を分離・固定できるチップを開発する。ある程度の固定効率が得られたのちに、血液サンプルを滴下し、リンパ球分離効率を検討する。 2.開発したPDMSチップによるγ-H2AXアッセイの検討(Ex vivoレベル):PDMSチップ上に分離固定されたリンパ球でγ-H2AXアッセイによるDNA損傷のモニタリングが可能であることの評価を行う。それにより、γ-H2AX 用PDMSチップがリンパ球分離だけでなく、免疫染色およびその後の解析も一貫して行うことのできるall-in-oneデバイスであることを検討する。 3.宇宙放射線被ばくの線量評価マーカーとしてのγ-H2AXアッセイの有効性の検討:宇宙放射線に多く含まれる陽子線照射の生物影響についてγ-H2AXアッセイによるDNA損傷モニタリングを行い、線量評価が可能でるかを検討するとともに、実際に宇宙ステーションでの利用のための予備的実験を行う。
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[Journal Article] The causal relation between DNA damage induction in bovine lymphocytes and the Fukushima nuclear power plant accident.2016
Author(s)
Nakamura AJ, Suzuki M, Redon CE, Kuwahara Y, Yamashiro H, Abe Y, Takahashi S, Fukuda T, Isogai E, Bonner WM, Fukumoto M.
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Journal Title
Radiation Research
Volume: 印刷中
Pages: 印刷中
DOI
Peer Reviewed / Int'l Joint Research
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