2016 Fiscal Year Annual Research Report
フラッシュラグ効果を用いた質感処理過程の同定
Publicly Offered Research
Project Area | Understanding human recognition of material properties for innovation in SHITSUKAN science and technology |
Project/Area Number |
16H01659
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
塩入 諭 東北大学, 電気通信研究所, 教授 (70226091)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 質感 / 視覚処理 / フラッシュラグ効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
質感特徴は初期視覚特徴に比べ高次の処理であることから,より長時間の処理が必要と予測される。本研究ではその差異を調べるために,フラッシュラグ効果を用い、異なる特徴に対する効果量の違いを検討した。最初の実験として質感処理と初期視覚特徴での比較を目的に、光沢と明るさを利用した。刺激として光沢が徐々に増加あるいは減少する画像を利用し、周囲のフラッシュ刺激の短時間呈示されたその瞬間の光沢感あるいは明るさ感を評価した。いずれの評価でも、実際にフラッシュが呈示された瞬間に呈示された画像よりも、時間的に後に呈示された画像の光沢、あるいは明るさが感じられることが明らかになった。光沢と明るさについてその遅れ時間の推定値を比較すると、明るさは光沢に比べて50ms程度短いことがわかった。この結果は、光沢感の処理と明るさ感の処理が異なり、光沢処理に要する時間は明るさ処理に要する時間よりも長い可能性があることを意味する。 上記の主要な結果に加えてフラッシュラグ効果は、刺激特徴およびフラッシュ呈示のタイミングの影響を大きく受けることも明らかにすることができた。本研究では同一刺激を用いた、異なる判断(光沢と明るさ)であり、差分の有無に関する議論には影響しないが、効果量の差分への影響については検討が必要である。現状では十分効果の大きな条件でのみ解析を行っている。フラッシュ刺激の呈示タイミングについては、光沢増加方向であっても光沢減少方向であっても、刺激呈示開始から500ms程度経過以降で顕著な効果が得られた。この原因は不明であるが、フラッシュラグ効果に関する新規な知見であり、今後検討が必要である。 フラッシュラグ効果による処理過程の違いを検討することができることを示す結果を得たので、表面のざらざら感など光沢以外の質感特徴に関しても予備的な検討を始めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度はフラッシュラグ効果により、質感特徴と初期視覚特徴を切り分け、処理過程の違いを検討することができた。これは、本研究の第1の目的で有り、ほぼ予定通りの進捗と判断出来る重要な成果である。この成果は簡単に得られたものではなく、当初の実験計画の適正な修正が必要であった。当初の計画では、併置された同一画像に対し、一方は光沢など質感特徴が連続変化し、もう一方は短時間フラッシュする刺激を用いる予定であった。その刺激に対する予備実験から、両者の比較が極端に難しいことがわかり、実験刺激を変更した。この課題の難度は光沢評価には、注意が必要で有り、同時に2カ所の画像の評価することが非常に難しいためと考えられる。この結果は、それ自体は興味深く将来検討する価値があるが、本研究の目的から外れるため、同時には1つの処理だけを必要とする手法を検討した。その手法では、連続変化する画像の周囲に赤色のフラッシュを一瞬呈示し、その瞬間の特徴を捉え、記憶する。変化刺激の終了後、同じ動画列から記憶した特徴と同等のものを選択し、それがフラッシュ呈示からどの程度遅れた時間に呈示されたものであるかを評価する。質感特徴と初期視覚特徴に対して計測された時間を比較することで、処理過程、処理時間の差異について検討することができる。この手法の開発によって、今後の研究の方針を決めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究において、光沢と明るさの判断を用いたフラッシュラグ効果の計測から、それらの処理が異なり、光沢処理に要する時間は明るさ処理に要する時間よりも長い可能性があることを示した。今年度は、同じ手法を他の質感特徴に拡張する。対象とする質感特徴として、表面のざらつき感、透明感、金色、液体粘性について光沢と明るさと同様に、質感特徴と初期視覚特徴の比較を行う。 ざらつき感については、表面の微小な凹凸を物理属性として、その程度(凹と凸の差)を制御することで、連続的に変化する。これは、光沢、透明感、金色などにおける関連する初期視覚特徴が、物体表面の反射率で表現されるのと異なり、研究対象の多様性、そこから導かれる結論の一般性を示すために重要である。この点を考慮して、他の質感特徴に先立って実験対象とする。ざらつきに対する初期視覚特徴は、凹凸の高さ/深さに対応するので、凹凸の立体感の評価を行う。それに引き続き、透明感、金色を対象にした実験を行う。透明感に対応する初期視覚特徴としては、明暗そのものと周囲との明暗のコントラストを予定している。金色については、初期視覚特徴は色相として、金色度合いのフラッシュラグ効果と色相に対するフラッシュラグ効果を比較する。 液体の粘性については、まず運動視に関するフラッシュラグ効果の検討が必要である。動きに関する初期視覚特徴として運動方向、速度を対象とし、それが連続的に変化する刺激におけるフラッシュラグ効果を計測する手法を開発する。その手法を用いて、CGで作った液体が流れる映像の粘性を連続的に変化し、粘性評価と運動特徴評価を比較する。 以上の方針で研究を進め、光沢、ざらつき感については、実験結果に基づく処理メカニズムの推定を、その他については実験手法の確立を目標とする。
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