2016 Fiscal Year Annual Research Report
液体粘性知覚の神経メカニズムの解明
Publicly Offered Research
Project Area | Understanding human recognition of material properties for innovation in SHITSUKAN science and technology |
Project/Area Number |
16H01681
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Research Institution | National Institute for Physiological Sciences |
Principal Investigator |
眞田 尚久 生理学研究所, システム脳科学研究領域, 特任助教 (40711007)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 質感 / 大脳皮質 / 視覚野 / 受容野 / 視覚運動 / 液体粘性 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、視覚生理学研究分野では、素材や光沢感など物体の質感の脳内表現が調べられるようになってきている。腹側経路V4野やIT野における研究で、素材やテクスチャ、光沢感などの物体の質感に選択的に反応する細胞の報告がされたが (Okazawa et al. 2014, Nishio et al. 2011, 2014)、これらの研究では静止画像が主に用いられてきた。 しかし、質感知覚は、動きの情報からも質感知覚を得ることができる。例として液体粘性知覚が挙げられ、複雑な運動情報から、液体の粘性を知覚することができる。視覚生理学の運動視研究は従来、ランダムドット運動などの単純な視覚刺激を用いて調べられてきており、液体運動の様な複雑運動がどのように表現されているのかはあまり研究されてこなかった。また、運動方向/速度と空間位置の組み合わせは膨大となり、技術的に生理実験を行うことが困難であった。 本研究では、近年人の心理物理研究から報告された、液体粘性の知覚判断と相関する高次運動統計量 (Kawabe et al. 2014)を視覚刺激生成に用いることで、液体粘性知覚が質感関連領野と視覚運動領野の両方から入力を受けている、高次視覚領野FST野で表現されているかどうかを明らかにする。 質感研究は近年社会的にも注目されてきているフィールドであり、運動を伴う質感の生理学的基盤とメカニズムを理解することは、科学的な意義があるだけでなく、質感デバイスの開発などに寄与することができると期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
28年度は、液体粘性選択性を調べるための複雑運動刺激をデザインし作成し、電気生理実験を行った。液体運動の特徴である局所ベクトルの連続性をコントロールするために、小さなランダムドット刺激をグリッド状に配置した視覚刺激を作成した。
本研究のターゲットは主にFST野であるが、FST野で実験を行う前段階の実験として、まずMT野から記録を行った。MT野は視覚運動領野としてこれまで多くの研究がされてきた領野であり、本実験に用いる刺激に対する応答のテストとして記録を行った。過去の知見から、MT野神経細胞は液体粘性には選択性を持たず、運動方向のみに選択性を示すことが予想され、昨年度の生理実験からも予測に近い結果が得られたが、視覚運動刺激の局所的な運動ベクトルの配置による影響かどうかを区別する必要があることが分かった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の生理実験には前年同様、小さなパッチ状のランダムドット刺激をグリッド状に配置した視覚刺激を呈示する。局所ベクトルの空間連続性を離散ラプラシアンで定量化し、液体粘性運動の刺激軸とすることで、運動による質感(液体粘性)選択性を調べることができる。各パッチ刺激は独立の運動ベクトルを持つため、運動ベクトルがすべてのパッチ刺激で同一であれば一様運動となり、従来使われてきた視覚運動刺激と同じ性質を持つ。刺激の平均の運動方向を8段階用いることで神経細胞の運動方向選択性を調べることができる。
これまでの実験刺激のデザインでは、各パッチ刺激の運動ベクトルは刺激呈示中に変化しなかったが、刺激に時間的な変化を加える。各グリッドの運動ベクトルが時間的に変化することで、刺激全体の空間パタンのバリエーションを増やすことができ、神経細胞の液体粘性刺激に対する応答が、運動ベクトル刺激の局所的な空間パタン依存的かどうかを区別することができると考えられる。この視覚刺激には受容野特性を調べるためのパラメータが組み込まれており、研究計画段階で予定していた逆相関法を用いた受容野測定も、解析段階で合わせて行えると考えている。
改良した時空間的に変化をする複雑運動刺激を用い、運動速度・液体粘性・空間パタンの3軸の刺激空間において、MT野およびFST野神経細胞の応答特性を調べ、どの刺激軸が重要かを定量的に調べることができる。この実験結果を取りまとめて、学会発表を行う。
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Research Products
(4 results)