2017 Fiscal Year Annual Research Report
Climatic impact on terrestrial environments and human migration in central Asia investigated by high-resolution analyses of lacustrine sediment core
Publicly Offered Research
Project Area | Cultural history of PaleoAsia -Integrative research on the formative processes of modern human cultures in Asia |
Project/Area Number |
17H05128
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Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
勝田 長貴 岐阜大学, 教育学部, 准教授 (70377985)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ユーラシア内陸 / 環境変動 / 最終氷期 |
Outline of Annual Research Achievements |
新人がアフリカ大陸からユーラシア大陸へ拡散したのは、約50千年前(ka)~約40 kaと考えられる。その移動経路のうち、アラビア半島からカスピ海・アラル海、バルハシ湖、そしてバイカル湖に至る経路とされている。本研究は、北ルートに位置するモンゴル北部のダラハド盆地で掘削した堆積物コアの連続解析を実施し、その地域が経験した陸域環境変動を解明することを目的としている。約7万年前~約1万年前の期間は最終氷期と呼ばれ、この時代のユーラシア内陸は乾燥化したとされる。このため、現在見られる大陸内の湖沼の多くは湖水位が低下したと考えられる。このため、バイカルリフト盆地のバイカル湖やフブスグル湖のような古代湖を除き、連続した最終氷期の堆積記録を得ることは困難とされていた。また、バイカル湖やフブスグル湖は堆積速度が通常の湖沼に比べて極めて遅く(1000年間で数センチ)、高い時間分解能での古環境復元が課題となっていた。このような背景のもと、2010年にバイカルリフト盆地のひとつのダラハド盆地の国際掘削計画が実施された。現在のダラハド盆地は、その多くの地域が陸地であるが、氷期は流出するShishhid川がTengissiin渓谷に発達した氷河によって堰き止められ、氷河湖が成立していたと周辺露頭の地形学的研究によって示されている。これらの予備調査によって、ダラハド氷河湖堆積物は、バイカル湖やフブスグル湖に比べて約10倍の時間分解能の記録が残されていることが示唆されている。本研究は、走査型X線分析顕微鏡(SXAM)を用いた堆積物コアの連続解析によってそこに記録される環境変動の歴史を人の活動と調和的な時間分解能で復元し、環境変動と新人の移動定住の関わりについての知見を得ることを目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本計画で用いる堆積物試料は3本のボーリングコアである。H29年度は全長164.5m堆積物コアの堆積記録の連続解析を中心に行った。これらの堆積物コアデータは既に取得済みのものが使用され、本計画は画像解析と時系列解析が主な研究課題となる。まず、既に分析済みの放射性炭素年代及び古地磁気層序データを用いて、堆積物コアの年代モデルを検討した。結果、使用したコアは過去約120kaの堆積記録であることが分かった。SXAM解析に先立ち、約1mごとに定量分析したXRFとXRD結果から、約85~75 kaと約35~15 kaのセクションは炭酸塩を含まないシルト質粘土層(湖成層)からなることから、これらの時代は氷河湖が発達していたことが示唆された。さらに、約13.8 kaから現在にかけての数10cmのセクションで、縞状構造が発達することが発見された。このセクションの下位はシルト質粘土層、上位は粗粒砂礫層からなるため、縞状構造の発達は、湖成環境から河川環境へ遷移した時期に形成されたものと考えられる。また、この縞状構造は方解石からなることから、湖水位低下で塩濃度が上昇した塩湖であった可能性がある。研究代表者は本計画に先立ち、ダラハド盆地のあるモンゴル北部の塩湖で、その堆積物に見られる方解石縞の成因を解明することを目的として水文調査を行っている。その調査結果から、方解石の生成は夏季の水温躍層において、植物プランクトンの光合成活動でCO2が消費されることで形成され、方解石の縞状構造は1年に1枚の年層であることを確認している。したがって、今回発見されたダラハド盆地の縞状構造も同様に年層と見なすことができ、その年層の枚数を計測した結果、約300枚含まれていた。これは、他地域に比べて気候変動に対して10倍の速度で応答した可能性があることが分かってきた。
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Strategy for Future Research Activity |
H30年度は、H29年度に発見された氷河湖成立期を示すシルト質粘土層と、急激な環境変化を示す縞状構造の分布を中心に詳細解析を進める。これに加えて、こうした現象は湖全体で生じたのか、ローカルな現象なのかを識別するために、他の2本のボーリングコアの解析を進める。そして、この結果と、既に得られている粒度解析データとU-Th比分析データと対比し、最終氷期におけるユーラシア内陸の水文環境変動の復元を行うと共に、環境変化が人の活動にどのような影響を与えてきたかを検討する。その準備として、H29年度は最終氷期における人の移動経路(アラビア半島→カスピ海・アラル海→バルハシ湖→バイカル湖)と、地質記録から復元される植生や気候モデリングの予測結果を検討してきた。その結果、現在その移動経路の一部は砂漠地帯であるが、最終氷期はステップ~森林ステップが広がっていたこと、すなわち植生と人の移動経路は緊密に関係している可能性が分かってきた。今後は、そうした大陸の陸域環境変動の要因をダラハド盆地堆積物から解読していくことを計画している。
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