2017 Fiscal Year Annual Research Report
Activation of electronic degrees of freedom competing with high-rank multipole orders by charge and magnetic-moment doping
Publicly Offered Research
Project Area | 3D Active-Site Science |
Project/Area Number |
17H05209
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
岩佐 和晃 茨城大学, フロンティア応用原子科学研究センター, 教授 (00275009)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 電子多極子 / X線散乱 / 中性子散乱 |
Outline of Annual Research Achievements |
電子が持つ電荷とスピンの自由度がもたらす物性に加えて軌道運動自由度も絡んだ物性が、遷移金属元素や希土類元素などを含む化合物全般に共通する強相関電子物性として注目されてきた。希土類元素を含む化合物系ではf電子自身の大きな軌道角運動量とスピンの結合した量子状態が形成される。一方、伝導電子がf電子と混成するチャンネルが現れると、磁気的性質が全く打ち消された状態をも含む高次多極子が物性を決定する場合が見られるようになり、多極子電子による物質科学が開拓されてきた。その結果、高次多極子が低温で秩序し、かつ電気伝導性など巨視的性質の変化をもたらす特異な電子相が生じるなど、新しいタイプの相転移が近年明らかになってきた。この高次多極子物性を示す物質に見られる元素置換効果は、電荷やスピンとの競合あるいは協力によりこれまで知られていない多様な電子状態をもたらしうる。本研究の目的は、これまでに知られている典型的な高次多極子物質やその発展物質における元素置換による新しい電子物性の活性化に着目し、その機構をもたらす原子レベルのミクロ構造を明らかにすることである。 PrRu4P12では、温度低下により現れる電気多極子の交替秩序が担う金属から非金属状態への相転移に対する元素置換(電荷ドープ)によって、さらに低温で再度金属化するといった現象が見られる。元素置換されたサイト近傍における電子状態と原子配置が現象を支配すると考え、蛍光X線ホログラフィーによる局所構造観察を試みた。また半金属Ce3Co4Sn13に対して、160 Kで生じる構造相転移を決定づけると考えられるCo周囲の原子配置を観測する測定も実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2016年度に現職に異動して以後、2017年3月に実験設備の移設を行った。その直後に本科研費の支援を獲得し、希土類元素を含む化合物系の実験試料の合成環境を整えることができた。電気多極子の整列や化学結合における電荷分布の再配列による構造相転移を示す物質を自己フラックス報で合成するルーチンを立ち上げた。並行して、本拠実験室において3ケルビン程度までの低温でのX線回折実験装置を稼働させ、電子相転移における物質構造の観察実験を任意に行えるようになった。さらに、新学術領域研究の計画班研究グループの支援を受けて高エネルギー加速器研究機構での放射光X線ホログラフィー実験を開始した。また、J-PARC物質・生命科学実験施設やフランスCEA-CNRS Laboratoire Leon Brillouinにおける中性子散乱実験も申請課題採択によって推進しており、予定してきた物質合成から量子ビーム散乱研究までの研究環境が整備された。
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Strategy for Future Research Activity |
RE3Tr4X13 (RE: 希土類元素、Tr: 遷移金属元素、Sn: Sn, Ge)は超伝導から半導体まで様々な電子状態を示し、この10年の間にヨーロッパやアメリカなど各国の物性物理研究グループで数多くの物質が合成され物性の詳細が明らかにされてきた。本研究グループでは、La3Tr4Sn13 (Tr: Co, Rh)が示す結晶構造相転移はカイラル対称構造の形成であることを見出し、過去に報告されていた超伝導は反転対称性のない特異な状態であることを見出した。このLa3Tr4Sn13 (Tr: Co, Rh)にFe, Ruを導入することで期待される構造相転移の低温への抑制の結果、電子状態はいわゆる量子臨界点近傍に至り、超伝導特性が変化する可能性に着想した。特に置換元素周囲での局所構造と超伝導状態の相関を見出すことが今後の課題である。また同型物質Ce3Tr4Sn13 (Tr: Co, Rh)では同じカイラル対称の構造相で半金属物性が見られ、La系とは異なる電子状態にある。海外研究グループを含む共同研究に基づいて、Ce3Ir4Sn13やYb3Ir4Ge13といった類縁化合物の半金属/半導体物性の起源を探るX線・中性子散乱実験を推進する。
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