2017 Fiscal Year Annual Research Report
分裂するプロトセル:設計原理と力学機構の解明
Publicly Offered Research
Project Area | Hadean Bioscience |
Project/Area Number |
17H05234
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
前多 裕介 九州大学, 理学研究院, 准教授 (30557210)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | プロトセル / 合成生物学 / 遺伝子発現 / ベシクル / 無細胞系 |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞はDNAにコードされた情報に従って多様な分子を産生し、自らのコピーを生み出し増殖する自己複製システムである。自律的な分裂を行うプロトセルを再構成することは、生命の定義にもせまる重要課題の1つと位置づけられる。ここで意味するプロトセル(Proto-cells)とは、現実の細胞を模倣しながらも、可能な限り単純な仕組みで動作する人工物を意味する概念である。そこで本研究では、10ミクロンサイズの細孔を脂質二重膜でシールし、自律的な遺伝子発現を行う「プロトセル-マイクロウェル」の開発を進めることで、細胞の設計原理を力学的に解き明かすことを目的とする。これらの区画内には、水, DNA, そして必要なタンパク質分子のリボソーム, RNAポリメラーゼ, tRNA, ATP, イオン等が閉じ込められ、遺伝子発現が自律的に行われる無細胞反応系を構成している。この内部の遺伝的プログラムに基づき、脂質膜が不安定化し小胞の出芽・分裂を行うプロトセルを構築する。 さらに、冥王代における原始細胞の誕生との関連に目を向けると、我々が構築するプロトセル-マイクロウェルは細孔の形状をしており、岩石表面にみられる多数の細孔を想起させる。上記の再構成実験は、原始的な代謝系が細孔内に捕捉され、自律的に動作するプロトセルが誕生する過程を追体験すると期待される。細胞様機能の再構成のみならず、冥王代疑似環境下で細孔から細胞を模したベシクルが自発的に誕生する力学的機構を解明する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、リン脂質二重膜でシールされたマイクロウェル内でおこる無細胞転写翻訳反応の活性度が、プロトセルの形状やサイズに依存してどのように変化するかを調べることを目的に研究を行った。 第1に、プロトセル-マイクロウェルの構築と、その内部に置ける自律的な遺伝子発現の動態計測と解析を進めた。10ミクロンサイズのマイクロウェルを平面脂質二重膜でシールし、無細胞転写翻訳の遺伝子発現を行うマイクロ流体デバイスを作成することに成功した。これらの区画内には、水, DNA, そして必要なタンパク質分子のリボソーム, RNAポリメラーゼ, tRNA, ATP, イオン等が閉じ込められ、遺伝子発現が自律的に行われる無細胞反応系を構成している。遺伝子発現の動態の詳細な解析を進めており、論文投稿準備中である。 一方で、区画の幾何学的な形状やサイズが異なると、膜表面の性質が遺伝子発現に与える影響も異なると考えられる。そこで第2の研究課題として、セルフリー抽出液を微小な区画に封入し、遺伝子発現に与える影響を解析した。区画のサイズと遺伝子発現量の依存性を解析したところ、プロトセルの体積の増大に対して遺伝子発現量は比例せず、遺伝子発現量は体積に対して非線形に増大していくことが実験から明らかになった。この非線形な依存性は、水滴表面における抑制的な翻訳過程を考慮した数理モデルで説明することができ、プロトセルの区画表面では転写・翻訳とりわけ翻訳過程が抑制的になっていることが考えられる。本研究成果は学術雑誌に投稿され、論文改訂中である。以上のように、細胞サイズの微小な空間に置ける遺伝子発現動態について成果が得られており、当初計画の通りに進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度はプロトセル-マイクロウェルにおける脂質膜の機能化と、膜の分裂や増殖を取り入れた力学的な変形について解析を進める。第1に、プロトセル-マイクロウェルにおける脂質小胞の分裂過程の再構成を行う。外部から取り込まれる脂質ミセルの濃度と浸透圧を変えながら、プロトセルの安定化・不安定性の誘起に最適な濃度領域を探索する。次に、プロトセル-マイクロウェルの内部に細胞骨格系の自己組織的形成を誘導し、膜の分裂や形態制御を司る機能制御の構築を進める。バクテリア細胞分裂において収縮力発生に関わるFtsZ、形態制御を司るMreBを無細胞遺伝子発現によりプロトセル内で合成する。現れる細胞骨格構造のパターン形成を蛍光顕微鏡で解析し、脂質膜の変形と力発生・形態変化をタイムラプス計測することで自ら分裂する機能的な人工細胞の構築条件を明らかにする。 さらにプロトセル-マイクロウェルでは、脂質二重膜が自発的に変形し、脂質ベシクルが出芽する事象が確率的に起こる。このような脂質ベシクルの自発的形成を効率よく行うために必要とされる物理的要因を探索する。余剰の脂質面積を作り出すミセルの取り込みや、脂質膜のゆらぎを系統的に調査する。
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Research Products
(6 results)