2017 Fiscal Year Annual Research Report
初期地球環境に相対的に多く存在したアミノ酸種を用いた原始的タンパク質の構築
Publicly Offered Research
Project Area | Hadean Bioscience |
Project/Area Number |
17H05237
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
赤沼 哲史 早稲田大学, 人間科学学術院, 准教授 (10321720)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 生命の起源 / 初期地球環境 / アミノ酸 / 初期進化 / 原始タンパク質 |
Outline of Annual Research Achievements |
異なる13アミノ酸種から再構成された2つの単純化型ヌクレオシド二リン酸キナーゼのアミノ酸組成の比較から、両単純化型改変体に共通して含まれた11アミノ酸種を「必須アミノ酸」と定義し、初期地球環境に比較的豊富に存在したと推定されているアミノ酸種と比較した。その結果、必須アミノ酸のうちのAla, Asp, Glu, Gly, Leu, Pro, Valの7アミノ酸種が、初期地球環境に比較的豊富に存在したと考えられているアミノ酸と一致した。すなわち、初期地球環境に比較的豊富に存在したアミノ酸を主成分として、活性を持った安定なタンパク質を再構成することに成功した。一致しなかった残りのHis, Asn, Arg, Tyrの4アミノ酸種は、触媒活性には重要なアミノ酸であるが、安定性への寄与は小さかった。 以上の結果に基づき、本研究では、13アミノ酸種から再構成された単純化型ヌクレオシド二リン酸キナーゼからさらにHis, Asn, Tyrの3アミノ酸種を他のアミノ酸に置換することで欠損させた。その結果得られた10アミノ酸種で再構成された改変体からは触媒活性は検出できなかった。しかし、変性温度は11℃向上することを見出した。 さらに、TIMバレル構造の少数アミノ酸種による再構成のため、TIMバレルタンパク質であるトリオースリン酸イソメラーゼの分子系統解析と、祖先配列の推定および祖先型トリオースリン酸イソメラーゼの復元をおこなった。推定した祖先配列のうち、真正細菌共通祖先に相当する2つの祖先配列をコードする人工遺伝子を合成し、大腸菌内で発現した。その結果合成されたタンパク質は、70℃で10分間熱処理してもほとんど変性せず安定であることを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
異なる13アミノ酸種から再構成された2つの単純化型ヌクレオシド二リン酸キナーゼに共通して含まれた11アミノ酸種を、初期地球環境に比較的豊富に存在したと推定されているアミノ酸種と比較したところ、7アミノ酸種が初期地球環境に比較的豊富に存在したと考えられているアミノ酸と一致した。この結果から、初期地球環境に比較的豊富に存在したアミノ酸を主成分として、活性を持った安定なタンパク質を再構成できることを実証することができた。 さらに、一致しなかった残りの4アミノ酸種のうちのHis, Asn, Tyrを、13アミノ酸種で再構成された単純化型ヌクレオシド二リン酸キナーゼからさらに欠損させた。その結果得られた10アミノ酸種で再構成された改変体は触媒活性を失ったが、変性温度が11℃回復した。以上の結果は、初期地球に比較的豊富に存在したアミノ酸種は、安定なタンパク質立体構造の形成に重要であり、それ以外のアミノ酸は、タンパク質の機能の多様化に重要であることを示唆するものであったので、誌上発表をおこなった。 また、原始的なタンパク質立体構造と考えられているTIMバレル構造を持つホスホリボシルアントラニル酸異性化酵素を、コンビナトリアル進化工学によって限られたアミノ酸種で再構成することを検討したが、配列全長を15アミノ酸種で再構成したホスホリボシルアントラニル酸異性化酵素が沈殿しやすい傾向があることを見出した。そこで、同じくTIMバレル構造を持つトリオースリン酸イソメラーゼの真正細菌共通祖先型および古細菌共通祖先型の復元を試み、成功した。以上の結果により、次年度以降に、復元した祖先型トリオースリン酸イソメラーゼを出発材料にしてアミノ酸組成単純化によって、初期地球環境に豊富に存在したと推定されているアミノ酸だけを用いた再構成に取り組むことが可能となった。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、10アミノ酸種だけから再構成されたにもかかわらず、80℃以上まで安定な立体構造を形成する単純化型ヌクレオシド二リン酸キナーゼ改変体をこれまでに得た。しかし、この単純化改変体からは、本来の触媒機能であるリン酸基転移活性は検出できなかった。一方、祖先型NDKが核酸結合活性を持つことが他グループから報告された。本研究で再構成した10アミノ酸種だけからなる単純化型ヌクレオシド二リン酸キナーゼ改変体も、核酸との結合に重要であると同定された塩基性アミノ酸が保存されている。そこで今後の研究の推進方策として、この単純化型ヌクレオシド二リン酸キナーゼ改変体が核酸結合活性を持つか調べる。加えて、10アミノ酸種からさらにアミノ酸種を減らしてヌクレオシド二リン酸キナーゼを再構成し、得られた改変体が核酸(特にRNA)結合活性を保持しているかについても検討することを計画している。地球化学的な研究から原始地球に存在したと予想されているアミノ酸だけからRNA結合活性を持つタンパク質が合成できれば、タンパク質の起源に関する重要な知見となるはずである。 また、今年度までに真正細菌共通祖先型トリオースリン酸イソメラーゼの復元に成功したので、次年度は、復元した祖先型トリオースリン酸イソメラーゼを出発材料にして、アミノ酸組成単純化をおこない、配列全長を可能な限り非生物的に合成されやすい、あるいは、隕石中に見つかっているため初期地球環境に豊富に存在したと推定されているアミノ酸だけを用いて再構成していく計画である。
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