2017 Fiscal Year Annual Research Report
多層グラフェン薄膜の乱層構造に起因する特異物性の研究
Publicly Offered Research
Project Area | Materials Science and Advanced Elecronics created by singularity |
Project/Area Number |
17H05336
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
小林 慶裕 大阪大学, 工学研究科, 教授 (30393739)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 乱層構造 / グラフェン / 酸化グラフェン / 超高温プロセス / 欠陥修復 / キャリア輸送特性 / 熱伝導特性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、大量製造可能な酸化グラフェン(GO)から反応性雰囲気での超高温処理により低欠陥・乱層・多層グラフェン薄膜を形成し、そこから単層に類似した優れた特性を引き出すことが目的である。本研究1年目の平成29年度では、物性測定に適した乱層グラフェン形成法の確立を進めた。当初計画では、薄膜形成プロセスとしては、低反応性基板上薄膜を加熱処理する直接的な作製法に加えて、1400℃以上での処理が可能なグラファイト加工基板上に架橋した酸化グラフェンを転写する手法を予定していた。しかし予備検討の結果、入手できた高融点酸化物・窒化物基板は超高温で炭素といわゆるcarbothermal反応を起こして分解することが判明した。またGOを架橋させる凹形構造のサイズが熱伝導計測などに必要な5μm以上とすると加熱処理後に凹形構造の溝に落ちてしまい、架橋構造を維持できないこともわかった。そのため、GO分散液の凍結乾燥で得られ、自立可能な高空隙スポンジ状GO(サイズ:1cm角)から低欠陥・乱層グラフェンを形成する手法の開発を重点的に進めた。自立構造体のため基板にグラファイト自身を使用でき、超高温でも基板材料との反応は無視できる。しかも電気炉を用いた複数試料の同時処理というスケーラブルなプロセスも可能となった。さらに乱層構造の形成は、従来のGO凝集体では試料表面付近に限られていたのに対し、高空隙GOスポンジを用いると内部に至るまで乱層構造となっており、しかも欠陥修復も進行していた。しかし、ラマンスペクトルの挙動から、積層構造は不均一であり、物性計測で単層類似の特性を引き出すにはプロセスの改善が必要であることもわかった。今後は、スポンジ状GOの構造均一性を向上して単層状物性を示す比率を向上するとともに、自立乱層構造グラフェンやそれを基板上に転写した薄膜による電気・熱物性測定へと展開する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書では、(1)物性解析に向けた低欠陥・乱層グラフェン薄膜作製法開発、(2)乱層グラフェン薄膜におけるキャリア輸送特性・熱伝導特性解析方法の確立の2項目を今年度に実施するとしていた。しかし、(2)の前提となる乱層・多層グラフェン薄膜作製プロセスにおいて、当初予定していた低反応性基板上薄膜を加熱処理する直接的な作製法や、1400℃以上での処理が可能なグラファイト加工基板上に架橋した酸化グラフェンを転写する手法が困難であることが判明した。そのため、自立可能な高空隙スポンジ状GOから低欠陥・乱層グラフェンを形成するという新たな手法に特化して進めることとした。その結果、cmスケールの試料全体が内部に至るまで乱層構造となるという当初は想定していなかった成果を得ることができた。来年度においては、得られたグラフェンを絶縁物基板上に転写して電界効果トランジスタ(FET)構造やホール効果測定素子を作製し、キャリア輸送特性の解析から乱層構造の特異性を検証することが可能となった。また、この試料を用いると、薄膜では困難であったバルクスケールでの熱伝導計測手法で評価できる可能性がある。 以上のように、予定通りの項目をすべて達成しているわけではないが、当初想定していなかった課題を克服する手法を提案・実施して、来年度の研究につなげており、おおむね順調に進捗していると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の1年目で見出した成果、すなわち高空隙スポンジ状GOの超高温処理による低欠陥・乱層グラフェンのスケーラブル形成を発展させ、物性計測に適した試料構造を作製する。得られた試料を用いて、物性評価を推し進め、炭素材料における特異構造である乱層構造から単層に類似した優れた物性の発現を検証する。 (1)物性解析に向けた低欠陥・乱層グラフェン薄膜作製法開発:高空隙スポンジ状GOの超高温処理による低欠陥・乱層グラフェン薄膜形成条件を最適化し、欠陥密度をさらに低減するとともに、乱層構造の比率を高める。処理条件としてはエッチング作用を持つ水蒸気や炭素供給力を高める炭化水素ガスを添加し、欠陥修復と乱層構造の維持が両立する条件を探索する。得られたグラフェン構造体について、物性測定に必要な絶縁物基板への転写やペレット状への成型技術を確立する。 (2)乱層グラフェン薄膜における物性解析:(I)キャリア輸送特性:項目1で得られた乱層グラフェンを絶縁物基板上に転写して得られる薄膜をチャネルとして電界効果トランジスタ(FET)構造やホール効果測定素子を作製し、電気的な特性評価をおこなう。FET特性やホール測定から乱層グラフェンにおけるキャリア移動度・密度の膜厚依存性を解析し、乱層構造による単層に類似した特異性発現を検証する。(II)熱伝導特性:乱層グラフェンの熱伝導特性を数層の架橋薄膜とプレス成形で得られる自立膜(サイズはcmスケール)の両面から評価し、乱層構造による熱伝導率の向上効果を検証する。(III)電気化学特性:優れた電気伝導度と高空隙構造を活かした応用として、電気化学電極としての活性を評価し、そのポテンシャルを検証する。活性はサイクリックボルタンメトリーでのピーク電流やその電極電位から解析する。
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Research Products
(24 results)