2017 Fiscal Year Annual Research Report
Theoretical study of energy conversion around structural singularities
Publicly Offered Research
Project Area | Materials Science and Advanced Elecronics created by singularity |
Project/Area Number |
17H05339
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Research Institution | Wakayama University |
Principal Investigator |
小田 将人 和歌山大学, システム工学部, 講師 (70452539)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 特異構造 / 第一原理計算 / GaN / 電子格子相互作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
窒化物半導体を用いた発光デバイスにおいて、非発光領域の成長によって発光効率が低下する現象が問題となっている。発光効率低下によるデバイスの劣化を抑え、素子寿命を担保するためには非発光領域成長機構の解明が不可欠である。非発光領域は点欠陥が欠陥反応により集合することで成長すると考えられているが、欠陥反応の機構は現在までほとんど未解明である。欠陥反応は特異構造を介した電子系-フォノン系間のエネルギー転換が原因で起こる。先行研究では、簡単な配位座標モデルを用いた欠陥反応シミュレーションによって、エネルギー転換が起り得る条件が示されたが、モデルが一般的であったため、具体的な材料において現実に条件が満たされるか否かを明らかにする必要がある。本研究では最も基本的な特異構造である欠陥を対象に、そこでの電子系とフォノン系の間のエネルギー転換機構の理論的解明を行うことを目的としている。具体的には、窒化物の典型的な特異構造を対象に、電子状態とフォノン構造を第一原理計算によって求める。定量的に算出される各種物性値を基に、欠陥反応シミュレーションをより現実的なものへと拡張し、特異構造を介して電子系から格子系へのエネルギー転換が起こるダイナミクス、さらには欠陥増殖反応の機構を理論的に明らかにする。 本年度は、GaN中のGa欠陥に注目し、電子状態及び振動状態の解析を行った。その結果、中性状態においてGa欠陥は欠陥反応につながるフォノンキック機構を引き起こす条件を満たしていることが明らかになった。これまでの成果をまとめ、原著論文を1報(JJAP. 56. 091001(2017))発表した。また、学会発表として、国際会議での口頭発表2件、国内学会でのポスター発表1件をおこなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、これまでGaN中にGa欠陥を含むモデルと含まないモデルを構築し、それらに対して第一原理計算を用いた電子状態解析、および振動モード解析を行った。欠陥を含む系と含まない系のフォノン状態密度の比較から、Ga欠陥を導入することで4つの孤立振動モードが現れることが明らかになった。振動モードの解析から、音響フォノンバンド直上にあらわれる波数406cm-1のモードは、Ga欠陥周りの4つのN原子のうち1つのみが大きな振幅をもつ局在モードであることをつきとめた。この結果は、もしこのモードが増強された場合、欠陥反応につながることを示唆している。この局在モードと欠陥由来のバンドギャップ中に存在する欠陥由来の孤立電子準位との電子格子相互作用を評価するため、振動モードの各原子配置ステップに対する電子バンドを比較した。その結果、局在振動モードの原子振幅に合わせて不純物電子バンドがギャップ中を上下しているため電子格子相互作用が大きいこと(ファン・リー因子=9.3)が明らかになった。これらの結果は、GaN中のGa欠陥が欠陥反応を引き起こすフォノンキック機構の原因となりうることを示している。 ただし、ここまでの計算はすべて中性状態に対するものであった。フォノンキック機構が起きるためには、ギャップ中の電子準位がホール捕獲・電子捕獲を繰り返す必要がある。すなわち、中性状態の計算に加えて荷電状態の計算を行い、局在モードが荷電状態でどの程度変調されるかを定量的に求める必要がある。本年度である程度荷電状態の計算を進めていく予定であったが、プログラムの問題で荷電状態の繰り返し計算の収束が遅く、予定よりは少し遅れている。しかし、プログラムの問題の解決策を見出したため、現在精力的に荷電状態の計算を行っている状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度までの研究結果から、もっとも単純に予想される欠陥反応は、増強されたモードのN原子がGa欠陥サイトに移動しもとのN原子サイトが空孔になるという新たな複合欠陥(NGa-VN)を生成する経路である。次年度は、まずN原子移動に対する断熱ポテンシャルを、中性・荷電状態それぞれに対して計算する。また、その結果を元に振動状態解析を荷電状態に対して行う。本年度の結果と比較することで中性状態の局在モードの振動数が荷電状態においてどの程度変調されるかを定量的に求める。これらの計算を元に、中性・荷電状態で同一振動数を改定していた先行研究で用いた配位座標モデルによる欠陥反応シミュレーションを現実的な系に対するシミュレーションへと拡張する。この拡張を行うことで、欠陥反応の時定数などを定量的に評価することが可能になる。 以上の計画と平行して、新しい複合欠陥に対する電子状態計算を行い、筑波大学上殿グループに依頼する実験的検証と合わせ、新たな特異構造の物性を明らかにして行く。
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Research Products
(6 results)