2017 Fiscal Year Annual Research Report
麹菌異種発現系を用いた感染時特異的な糸状菌代謝産物の安定供給
Publicly Offered Research
Project Area | Creation of Complex Functional Molecules by Rational Redesign of Biosynthetic Machineries |
Project/Area Number |
17H05425
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
尾崎 太郎 北海道大学, 理学研究院, 助教 (40709060)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 生体分子 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では植物の病原菌や内生菌が、宿主植物への感染時特異的に転写活性化させる遺伝子群に由来する二次代謝産物を、麹菌異種発現法によって安定に供給することを目的に研究を行った。物質生産能に優れた宿主を用いて異種発現によって、感染時に一過的に発現する生合成遺伝子に由来する化合物など、稀少な物質が安定に供給できるようになると期待される。 糸状菌Trichoderma virensが宿主植物へ感染する際に転写活性化されるPKS-NRPS遺伝子tex13を麹菌で異種発現し、その代謝産物の同定を試みた。標的遺伝子を近傍に存在するエノイル還元酵素遺伝子とともに麹菌に導入し、形質転換体の代謝産物を分析したが新たな代謝産物を見出すことはできなかった。 バナナの病害であるblack Sigatokaの原因菌として知られる糸状菌Pseudocercospora fijiensisは、宿主への感染時に複数の二次代謝遺伝子クラスターを転写活性化する。本年度はその一つであるジテルペンの生合成遺伝子クラスターを麹菌を宿主として異種発現し、形質転換体から新規brassicicene類縁体を同定した。 また、ウリ科植物の炭疽病菌として知られるColletotrichum orbiculareの有するセスタテルペン合成酵素btcAに着目し、その機能解析を行った。btcAは本菌の感染初期に転写された後、継時的に転写強度が減衰していくことから、感染の初期に機能する化合物の生合成に関与すると考えられた。btcAの異種発現により、申請者らが以前に単離したPb1(betaestacin I)と同一のセスタテルペンが生産された。btcAの周辺領域に存在する修飾酵素遺伝子との共発現により、新たな酸化生成物を得ることにも成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画したtex13遺伝子の異種発現については、目的とする化合物の異種生産を達成できていないため、当初の計画よりも遅れている。 炭疽病菌であるColletotrichum orbiculareのゲノム配列より、セスタテルペン合成酵素遺伝子btcAを見出し、機能解析を行った。btcAの周辺領域に存在する酸化酵素遺伝子との共発現により、新規セスタテルペンを異種生産することに成功した。2種の酸化酵素遺伝子については機能解析に成功したが、btcA近傍に存在する他の修飾酵素遺伝子については本年度の実験からは機能を見出すことができず、最終産物の同定には至っていない。 また、バナナの病害であるblack Sigatokaの原因菌として知られる糸状菌Pseudocercospora fijiensisが宿主への感染時に転写活性化させるジテルペン生合成遺伝子群に着目して、それらの異種発現を行った。感染時に協調して転写活性化される8つの遺伝子を麹菌に導入し、新たなbrassicicene類縁体を同定することができた。感染時に活性化される二次代謝経路の最終産物と考えられる化合物の同定に成功したため、麹菌を宿主とした異種発現が、感染時に特異的に生産される化合物の供給に有効であることを示した。また、異種発現の過程でブラシッシセン関連化合物の生合成において最終産物の構造多様化を担う鍵酵素を見出すこともできた。 PKS-NRPS遺伝子については当初の計画よりも遅れているが、植物病原菌が感染時に転写活性化させる2種のテルペン生合成遺伝子群について異種発現に成功し、そのうち1例については修飾酵素遺伝子との共発現によって最終産物と考えられる化合物の同定にも成功した。以上のことから、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度に計画したtex13遺伝子の異種発現を引き続き行う。本PKS-NRPSによって生合成される代謝産物の同定を試みたが、目的化合物の異種生産は達成できていない。そのため、平成30年度も引き続きtex13と、本遺伝子の近傍に存在するエノイル還元酵素遺伝子の異種発現を行って、目的化合物の異種生産を目指す。これらの異種発現によって基本骨格となる化合物が生産できた場合には、遺伝子クラスター中に存在する修飾酵素遺伝子を順次導入し、最終産物の同定を試みる。 また、平成29年度に異種発現を行ったPseudocercospora fijiensisのbrassicicene生合成遺伝子についても引き続き機能解析を行う。brassiciceneには、brassicicene Aのように5-8-5員環構造を有する化合物と、brassicicene Cのように5-9-5員環構造を有する化合物が知られている。異種発現の過程でこれらの構造の作り分けに関与する修飾酵素を同定することができた。当該酵素について試験管内反応を試みて反応機構を解析する。 他の植物病原性糸状菌が感染時に転写活性化させる二次代謝遺伝子クラスターについても、引き続き候補遺伝子を選抜し、異種発現を行う。平成29年度に対象とした炭疽病菌やP. fijiensisについては異種発現によるテルペンの生産に成功したので、感染時に転写活性化される他の二次代謝産物生合成遺伝子についても、異種発現による最終産物の同定を試みる。
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