2017 Fiscal Year Annual Research Report
Investigation of light pressure induced phase transition by an electronic properties approach
Publicly Offered Research
Project Area | Nano-Material Manipulation and Structural Order Control with Optical Forces |
Project/Area Number |
17H05461
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
坂本 一之 千葉大学, 大学院工学研究院, 教授 (70261542)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 電子構造 / 光圧 / 相転移 / ナノマイクロ物理 / 新機能性材料 |
Outline of Annual Research Achievements |
光渦による電子状態の変化を伴った相転移現象を初めとした物質改変は、ナノメートルオーダーの物質加工や新奇物性発現の可能性を秘めている。本研究目的は、光照射によるアブレーションや電子状態の励起と光圧によるマニピュレーションを組み合わせた全く新しい相転移機構を電子物性的アプローチにより解明することである。そこで初年度は、光渦照射により半導体的な振る舞いから金属的な振る舞いに転移するC60薄膜の電子状態測定を目的に試料作製用真空槽から測定用真空槽へのC60薄膜の移動方法の確立をまず行った。C60薄膜の作製と光渦照射で光圧が寄与することによって相転移したC60薄膜の作製を行う真空槽と、光電子分光測定する真空槽は異なっており、試料の電子状態を測定するためには作製した薄膜を大気中に取り出して搬送する必要がある。作製したC60試料を10-1Pa程度の低真空に封入して搬送し、その後10-8Pa以下の超高真空槽に入れることで搬送中試料に吸着した水などのガスが抜け、光電子分光測定が十分行えることがわかった。実際には、マスキングによってSiO2表面上にパターニングした厚さ5nm程度のC60薄膜の一部に光渦を当て、光渦を照射した場所としていない場所の電子状態を光エネルギー6eVと7eVのレーザー光電子分光で測定したところ、光渦照射したところでのみ元々半導体的な電子状態のC60が金属的となってことを示すフェルミエッジが観測された。C60にレーザー光を照射すると分子重合が起き、C60が部分的に金属的になることが知られており、本課題の実験でも電子状態に時間変化が観測されたがレーザー照射のみではフェルミエッジが現れなかったことから上記フェルミエッジの観測は光渦照射に起因すると結論した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
試料搬送用の簡易真空槽を作製したことにより、場所の離れた試料作製真空槽と電子状態測定真空槽の間でC60薄膜の汚れを最小限に抑え、光電子分光測定が初めて可能となった。光渦照射用のレーザー光源を光電子分光装置に取り付けることが非常に難しいことから、試料搬送が可能となったことは本研究遂行において不可欠な進展である。光電子分光測定は光のスポットサイズを光渦のものと同程度まで絞れる光エネルギー6eVと7eVのレーザー光を用いて行い、光渦照射をした試料としていない試料においてフェルミ準位近傍の電子状態に明確な違いを観測した。しかし、レーザー光電子分光測定時に起こる分子重合のため分子軌道の電子状態が時間とともに変化してしまい、光圧誘起相転移に関する詳細な情報を与えるC60薄膜の電子バンド構造を得るには至らなかった。また、光渦照射により形成された金属的なC60薄膜は分子の回転が止まることを利用し、回転の止まった分子の配置を調べて重合部位に関する知見が得られることを期待して光電子分光測定と同様に作製した試料を搬送して走査トンネル顕微鏡での観測を試みた。しかし、基板上に形成されている絶縁酸化膜の影響でクリアな像を得ることはできず重合部位に関する知見を得るには至らなかったが、新たに走査トンネル顕微鏡の真空槽にC60の蒸着源と光渦用のレーザー光源を設置し、酸化膜や汚れによる影響のない測定が可能なセットアップを完成させた。 領域内の共同研究として当初の計画にはなかった表面プラズモンが増強される金ナノ粒子の電子状態観測を新たに始めた。新学術領域では領域内の新規共同研究が奨励されており、この共同研究の開始は当初の計画以上の成果とあると言える。 バンド構造測定に関しては計画通りに進まなかったものの、その他の計画に関しては予想通り、もしくは予想以上に進んでおり、全体としておおむね順調に進行していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、平成29年度に得た成果を基に課題を発展させるとともに、光圧による他の物質改質の可能性を探る。具体的には、光渦によって金属化されたC60薄膜の電子状態を光エネルギー21.2eVのHe放電管や放射光施設で20から40eVの光エネルギーを用いて測定する。研究代表者はこれまでこれらの光源を用いたC60薄膜の研究を行っており、C60の重合が起こらないことを確認している。しかし、これらの光源はレーザー光よりも弱い上にスポットサイズが光渦のものよりも1桁以上大きく、光電子強度が稼げない可能性がある。そこで試料にマスキングすることで光渦と同程度の大きさのC60島を多数作製し、それらのうち光源のスポットサイズよりも広い範囲内にあるものを金属化させることで光電子強度を上げることを検討している。 C60の重合部位に関してはセットアップが完了した走査トンネル顕微鏡装置を用いる。光電子分光で使用している自然酸化膜で被覆されたシリコンではトンネル電流が安定しないことから金属基板上に成長させた単原子絶縁膜上にC60薄膜を作製し、それに光渦を照射して照射領域と非照射領域での分子像を室温で観測する。得られた像より分子の重合の様式に関する知見を得る。 C60の相転移は光渦による電子励起と光圧を組み合わせた結果であるが、アブレーションと光圧を組み合わせることで他の物質改質を探ることを計画している。用いる試料はビスマス単結晶薄膜であり、ここに光渦のパルス光を照射することでビスマスナノワイヤーの創製を目指す。作製したビスマスナノワイヤーの電子状態および構造を光電子分光とX線回折で調べ、重元素ナノワイヤーで発現する新奇量子物性も探る。
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Research Products
(13 results)
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[Presentation] Electronic properties of thallium single crystal thin film2017
Author(s)
M. Iwaoka, K. Koga, Y. Yaoita, Y. Zhang, Y. Sassa, J. Fujii, Y. Yoshida, Y. Hasegawa, S. Ichinokura, R. Akiyama, S. Hasegawa, and K. Sakamoto
Organizer
33rd European Conference on Surface Science (ECOSS 33)
Int'l Joint Research
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