2017 Fiscal Year Annual Research Report
電子伝達系におけるユビキノンと活性イオウ分子とのレドックスカップルの意義
Publicly Offered Research
Project Area | Oxygen biology: a new criterion for integrated understanding of life |
Project/Area Number |
17H05519
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
熊谷 嘉人 筑波大学, 医学医療系, 教授 (00250100)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 活性イオウ分子 / レドックスカップル / 電子伝達系 / 親電子物質 |
Outline of Annual Research Achievements |
一般にタンパク質のシステイン残基では酸化型タンパク質を還元するには不十分であり、たとえ一電子酸化反応が進行して生じたチオールラジカルは不安定で酸化されやすく、還元型タンパク質を酸化するには不適とされている。ところが、イオウ原子がひとつ付加した場合、酸化型タンパク質を一電子還元反応できるだけでなく、生成物であるパースルフィドラジカルは化学的に安定であると理解されてきた。 本研究では、高い抗酸化性および求核性を有するパースルフィドおよびポリスルフィドと電子受容体との相互作用について検討した。 大気中電子受容体である9,10-フェナントラキノン(9,10-PQ)とパースルフィドのモデルであるNa2S2を反応させると、酸素消費量が観察され、ESRにおいてパースルフィドラジカルおよびセミキノンラジカル体がそれぞれ検出された。予想どおり、生成したパースルフィドラジカルは安定に存在した。同様の現象(酸素消費、パースルフィドラジカル体とセミキノンラジカル体の生成)はビタミンK、ピロロキノリンキノンや内因性電子受容体であるユビキノンでも観察された。一方、内因性パースルフィドであるシステインパースルフィドのモデルとして用いたS-メトキシカルボニルペニシラミンジスルフィド(反応液中で自発的にS-メトキシカルボニルペニシラミンパースルフィド)と9,10-PQを反応させても、酸素は消費され、セミキノンラジカル体の生成が確認された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度は酸素消費量およびESRによるラジカル種の検出により、電子受容体および電子供与体としてのパースルフィドおよびポリスルフィドとのレドックスカップルの有無を調べた。構造の異なる外因性電子供与体キノンおよび内因性電子供与体とパースルフィド/ポリスルフィドとはレドックス反応することが示された。特に、反応液中で自発的にS-メトキシカルボニルペニシラミンパースルフィドを産生するS-メトキシカルボニルペニシラミンジスルフィドと9,10-PQとの反応で酸素消費およびセミキノンラジカル体が検出されたことは、間接的であるが生体内でCARS2から産生されるシステインパースルフィドが生体内の電子受容体とレドックスカップルする可能性を示唆している。 今回はS-メトキシカルボニルペニシラミンパースルフィドラジカルを検出するには至らなかったので、今後は条件等を変えて本検出を試みる。また、パースルフィド/ポリスルフィドとレドックスカップルする可能性のある物質(NADやNADPおよびそれらの還元体、FADやFMNおよびそれらの還元体)との相互作用も検討中である。さらに、サイクリックボルタメトリーを用いて現有の電子供与体および電子供与体の酸化還元電位の測定を行っており、得られたデータを総合して関係学会での発表および学術雑誌への投稿を準備中である。 以上より、現在までの研究状況は概ね順調と言える。
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Strategy for Future Research Activity |
パースルフィドやポリスルフィドのような活性イオウ分子(Reactive sulfur species, RSS)のレドックスカップルについては、今後も種々の内因性および外因性電子受容体との反応を酸素消費量およびESRでのラジカル種産生を指標に検討する。 レドックスシグナル伝達において、センサータンパク質の反応性チオール基(チオレートイオン)が過酸化水素のような活性酸素種(Reactive oxygen species, ROS)によりSOH基に酸化され、これがグルタチオンと反応してグルタチオン付加体(S-SG)が生成し、このものがチオレドキシンによりS-S結合が還元されて元に戻る(可逆的である)ことが知られている。しかし、過剰のROS存在下 ではSH基がSO3H基まで酸化され、SO3H基を還元できる細胞内酵素がないために不可逆的な反応と理解されてきた。 本研究では、レドックスシグナル伝達の可逆性における活性イオウ分子の役割について明らかにする。すなわち、センサータンパク質のモデルとしてプロテインチロシンフォスファターゼ1B(PTP1B)のリコンビナントタンパク質を用いて、ROSとRSSの共存下において、PTP1BのSH基がSSOH基に変換されることをジメドン誘導体としてLC/MSで同定する。当該反応液にDTTのような還元剤を加えてS-S結合を開裂し、生じたジメドンのSH付加体を同定する。また、ROSとRSSとの相互作用により細胞内のPTP1BのSSOH化されていることを免疫沈降実験で示す。さらに、PTP1BのSSOH基の還元にチオレドキシンあるいはその関連タンパク質が関係しているか否かを検討する。 以上より、レドックスシグナル伝達のひとつであるPTP1B/EGFRシグナルの可逆性にRSSが関与していることを明らかにする。
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