2017 Fiscal Year Annual Research Report
葉緑体で発生する活性酸素シグナルの調節機構
Publicly Offered Research
Project Area | Oxygen biology: a new criterion for integrated understanding of life |
Project/Area Number |
17H05526
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
吉岡 博文 名古屋大学, 生命農学研究科, 准教授 (30240245)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 植物免疫 / 活性酸素 / ROSセンサー |
Outline of Annual Research Achievements |
植物免疫には、病原菌の構成成分である分子パターンとパターン認識受容体との相互作用で引き起こされるPTI (pattern-triggered immunity) と、病原菌のエフェクターを抵抗性タンパク質が認識することで細胞死が誘導されるETI (effector-triggered immunity) とが存在する。PTI、ETIのいずれにおいても、急激な活性酸素種 (ROS) の生成が引き起こされる。この反応はROSバーストと呼ばれ、PTIと比較してより激しいETI-ROSバーストは細胞死に重要な役割を果たすと考えられている。ROSバーストは、主に原形質膜のNADPHオキシダーゼであるRBOH (respiratory burst oxidase homolog) によって引き起こされる。申請者は、これまでの公募研究においてETI-ROSバーストが植物免疫に関わるMAPKによってリン酸化される複数のWRKY型転写因子によって誘導されたRBOH遺伝子発現に起因して誘導されることを明らかにしてきた。最近になって、より激しいETI-ROS バーストが同じMAPKの介在によって葉緑体で誘導されることが見いだされた。さらに、この過程には二酸化炭素を還元してグルコースを生産するカルビン回路がMAPKによって抑制され、ドナーであるNADPHが過剰となることが原因であることわかってきた。本研究では、葉緑体におけるROSセンサーを探索することによって、植物が光エネルギーを利用して生体防御反応を駆動する機構を解明することを目的とする。 スルフェン酸と反応してシグナル伝達を阻害するYAP1を葉緑体に発現させたところ、INF1誘導による細胞死が抑制された。また、核で検出されたROSは葉緑体のPSIに依存することが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
植物の免疫応答では、アポプラストや葉緑体における活性酸素種 (ROS) の生成が誘導されることが知られている。葉緑体においては、光化学系II (PSII) では一重項酸素が、PSIではO2-が生成される。これらのROSは、免疫応答におけるHR細胞死をはじめとする様々な応答へ貢献しているものと考えられている。また、レトログレードシグナルとして、O2-から派生したH2O2が葉緑体から核へ直接送り込まれる可能性が示されている。葉緑体のH2O2は、葉緑体または核でROSセンサー分子に受容されると予想される。本研究では、葉緑体のROSを介したシグナル伝達機構の解明を目指し、ROSセンサー分子の免疫応答における役割を調べた。 ROSを介した主なシグナル伝達は、センサー分子のシステイン残基がH2O2と反応してスルフェン酸を形成し、スルフェン酸が修飾を受けることでシグナルが誘導される。スルフェン酸と反応してシグナル伝達を阻害するYAP1を葉緑体に発現させたところ、INF1誘導による細胞死が抑制された。また、ROSを可視化するセンサータンパク質であるHyPerを用いて核のROSを検出したところ、INF1処理によってROSの存在を示す蛍光が観察された。また、核における蛍光がNTRCサイレンシングにより促進され、DCMU [3-(3,4-dichlorophenyl)-1,1-dimethylurea]処理によって抑制されたことから、核のROSはPSIに依存することが示された。さらに、YAP1を核に発現させたところ、MEK2DD誘導による細胞死が抑制された。 以上より、葉緑体のROSシグナルは葉緑体や核で受容され、細胞死を誘導する因子に依存した複雑なネットワークを形成しているものと思われた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、まずROSセンサーの候補遺伝子を獲得することを目標とした。その後、得られたROSセンサーの候補遺伝子の機能を解析する目的でスルフェニル化されるシステインをアラニンに置換し、内生遺伝子のノックダウンに用いた領域のコドンをシャッフルしたcDNAをagro-infiltration法によって一過的に導入し、併せて細胞死を誘導するINF1、SIPK、ETIを引き起こすトマト葉かび病菌 (Cladosporium fulvum) のエフェクター遺伝子Avr9とその抵抗性遺伝子である Cf-9、ジャガイモ疫病菌のAvrblb2に対応するRpi-blb2遺伝子、トマト斑葉細菌病菌 (Pseudomonas syringae pv. tomato) のAvrPtoに対応するPto遺伝子をagro-infiltration法によりベンサミアナに一過的に導入し、細胞死を観察するよていである。しかし、ROSセンサーの候補遺伝子が得られていないので、PTIおよびETIを誘導した細胞の葉緑体や核に局在シグナルを付加したYAP1をそれぞれ発現させ、標的タンパク質を網羅的に解析する予定である。
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[Journal Article] An NADPH oxidase RBOH functions in rice roots during lysigenous aerenchyma formation under oxygen-deficient conditions.2017
Author(s)
Yamauchi, T., Yoshioka, M., Fukazawa, A., Mori, H., Nishizawa, N.K., Tsutsumi, N., Yoshioka, H. and Nakazono, M.
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Journal Title
Plant Cell
Volume: 29
Pages: 775-790.
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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