2017 Fiscal Year Annual Research Report
Spatial representation of place cells in adaptive behavior
Publicly Offered Research
Project Area | Mechanisms underlying the functional shift of brain neural circuitry for behavioral adaptation |
Project/Area Number |
17H05551
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
佐々木 拓哉 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 助教 (70741031)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 海馬 / 場所細胞 / 嫌悪刺激 / マルチユニット記録 / 認知地図 |
Outline of Annual Research Achievements |
自然環境において、動物は正負の価値をもつ様々な外部刺激に取り囲まれている。特に負の情報としての嫌悪刺激が特定の場所と関連している場合、動物は空間と嫌悪情報の関連性を学習し、回避または接近行動を取るか否かを決定する必要がある。海馬の場所細胞は、自分がいる空間に対応して発火する細胞であり、動物が空間記憶や空間認識を行う基礎となる神経基盤として、脳内の認知地図の構成に重要であると考えられている。しかし、実際の自然界で求められるような、複雑な環境への適応行動と場所細胞の関係は明らかではない。これまでに、場所細胞の特徴的な発火列を計測するためのマルチユニット計測法の構築を進めてきた。本研究では、適応行動の神経機構の理解を目指す本新学術領域の目標に沿って、嫌悪刺激に対する場所細胞回路シフトの基礎動態の解析を行った。実験では、エアパフ刺激をT字型迷路交代課題に組み込み、新しい行動パラダイムを設計した。本行動試験遂行中のラット神経細胞の発火活動を記録し、(1)嫌悪刺激の出現は両方の軌道上での新しい空間表現を引き起こすこと、(2)空間表現の変化には、場所細胞の場所受容野内における発火率の増加と、特に嫌悪刺激の提示位置付近における新たな場所受容野の出現が含まれること、(3)嫌悪刺激の除去は新たな発火パターンを誘導すること、を見出した。本研究は、海馬場所細胞が、負の位置情報を表象するために、細胞集団の活動を増加させることを示した新しい知見である。以上の研究成果を、Frontiers in Neural Circuits誌に報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
場所細胞回路の発火パターンの柔軟な編成は、新規の嫌悪的事象の学習に重要な神経機構であると考えられる。これまでの研究で、嫌悪的な事象の導入が細胞の発火にどのように影響を及ぼすかが調べられてきたが、これらの研究は技術的制限のために嫌悪刺激として電気ショックを利用している。そのため、電気生理学的記録を行うにあたり大きなノイズが引き起こされてしまい、電気ショック時の神経活動パターンを記録することはできていないという問題があった。嫌悪的事象と結びついた場所における神経発火活動を記述するためには、記録データに電気的ノイズが混入しないこと、動物が嫌悪的な場所に繰り返し侵入すること、の実験条件が必要である。本研究では、従来のT字型迷路を改変することによって、これらの要件を組み込んだ新しい行動課題を設計した。本課題において、ラットは報酬のある領域に達する前に、嫌悪刺激の一つであるエアパフ刺激(空気刺激)に曝される。嫌悪刺激としてエアパフ刺激を利用することにより、電気ノイズの混入なしに、複数の海馬神経細胞の発火パターンを記録することが可能となった。この行動課題では、ラットは特に嫌悪刺激の提示位置を通る直前に走行速度を低下させるという躊躇の兆候を示したが、報酬を獲得するための動機によって、嫌悪刺激提示位置を通り抜けた。この行動試験遂行中のラットの海馬CA1野からのマルチユニット記録を行うことで、嫌悪的な刺激を環境に与えたときに生じる神経活動の変化について解析し、上述の研究実績の概要に記述した結果が明らかとなった。ここまでの結果を論文として報告できたことから、一定の成果が得られたと判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、嫌悪刺激に対して適応行動を示す動物において、どのように場所細胞活動が変動するか、その実態の一端を解明できたと考えている。特に、ラットが嫌悪刺激を受け入れてでも報酬へ向かうか、刺激を忌避して報酬から遠ざかる行動を採るか、という葛藤行動を呈する行動課題を構築できた点は重要である。今後は、こうした行動選択について、場所細胞活動から予測が可能か解析する。海馬では、迷路の分岐点など、思考が要求される際に特徴的な同期活動(局所場電位としてはシャープウェーブリップル波として観察される)が生じる。最近、我々はこの同期活動が、これから訪れる軌跡に対応した場所細胞の発火列を含むことを明らかにしている(Sasaki et al., Nat Neurosci, 2018)。これは、将来の予測的な情報表象を担う神経機構と言えるが、実際の意思決定との関連は明らかではない。本研究では、経路を選択する前段階の意思決定時に生じる場所細胞活動に、ベイズ推定やシークエンス解析を適用し、意思決定がどれほど正確に予測できるか検討する。さらに将来的には、海馬活動の操作を試みて、適応行動の制御を検討する。また今後は、背側海馬だけでなく、より脳深部の腹側部位からの計測も検討している。このために、脳組織内で深さ調節が可能なシリコンプローブ電極を製作し、腹側海馬錐体細胞層を標的にできる実験系を確立する。背側海馬と比べて、腹側海馬では嫌悪刺激に対する応答性がどのように異なるか調べる。
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Research Products
(10 results)