2017 Fiscal Year Annual Research Report
光合成明反応の作動状況を認識する2種ヒスチジンキナーゼの機能解析
Publicly Offered Research
Project Area | New Photosynthesis : Reoptimization of the solar energy conversion system |
Project/Area Number |
17H05720
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
田中 寛 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 教授 (60222113)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | シアノバクテリア / 環境応答 / ヒスチジンキナーゼ / 二成分制御系 / 光化学系II / プラストキノン / リン酸化 / 熱ショック応答 |
Outline of Annual Research Achievements |
シアノバクテリアで高度に保存された2種ヒスチジンキナーゼHik2、NblSは光合成明反応系の機能調節・最適化システムの中核にあり、本研究ではこれらキナーゼの活性調節機構の解明を目指している。 Hik2は、レスポンスレギュレーターRre1のリン酸化を介して主要なシャペロン群の発現を調節しており、Rre1の直接制御下にあるhspA遺伝子の発現でその活性をモニターすることができる。hspAの発現は明条件から暗条件へのシフト、DBMIB添加等のプラストキノン(PQ)還元条件で誘導されることから、還元されたPQがHik2活性化シグナルとして想定される。しかし、hspAはPQ酸化を誘導するDCMU添加時にも誘導されることから、単純なモデル設定が困難となっていた。H29年度の研究ではHik2と共にRre1リン酸化に関与するヒスチジンキナーゼHik34機能の解析を行い、DCMU添加時のhspA誘導がHik34に依存することを見出した。これによりPQ還元とHik2活性化の相関はさらに強固となったが、一方でHik2は細胞質の可溶性タンパク質であることが細胞分画法による局在解析により示された。PQは膜内の電子伝達物質であることから、その情報伝達機構が今後との課題となる。 NblSは2回膜貫通型のキナーゼであり、様々なストレスに応答するがその活性調節機構は殆ど解明されていない。H29年度の研究では細胞内局在解析を行い、NblSがチラコイド膜に局在することを示した。また、直接の制御下流にあるhliA遺伝子発現を指標とした解析で、NblSが明所でのDCMU添加により速やかに活性化されることが示された。また、タンパク質合成阻害剤によりPSII活性中心タンパク質の損傷を誘導してもhliAは誘導される。以上の解析結果により、NblSがPSII内部状態の何らかの変化の認識に関わることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H29年度の解析では、Hik2とNblSの活性調節に直接関わるシグナルの特定に留意して研究を進めた。 Hik2の活性化はRre1リン酸化として下流に伝えられるが、Rre1はHik34にもリン酸化される。hik34も必須遺伝子であるが、部分変異株の経代培養によりサプレッサー変異の存在下で完全欠損株の取得が可能である。hik34欠損株を複数株独立に取得したところ、これら変異株は熱ショックによるRre1下流遺伝子群の誘導能を失っており、Hik34がヒスチジンキナーゼとして熱ショック誘導に関わることが示された。さらに、Hik34により熱ショック誘導される必須のシャペロンDnaK2(Hsp70)の過剰発現により熱ショック誘導の低下が観察され、DnaK2がHik34活性の負の調節因子であることが示唆された。 上記hik34の欠損株を用いることで、Hik2に依存したシグナル伝達を明確に観察することが可能となり、PQ還元条件とHik2活性化との相関をより強く示すことができた。今後の解析ではより直接的なin vitroのリン酸化系の確立が重要であるが、既に大腸菌を用いたHik2およびRre1の発現系、精製系を構築してアッセイ系の準備を整えている状況にある。また、Hik2のシグナル認識に関わると想定しているGAFドメイン、キナーゼドメインへの部位特異的変異導入等、変異型Hik2を用いた解析の準備も進めている。 NblS機能解析については、上記のようにSynechococcus7942株を用いた解析により、少なくとも強光ストレスへの応答にはPSII本体からのシグナルが感知されることを示唆できた。PSIIの関与を更に調べるためにはPSIIの変異株が取得できるSynechocystis 6803株の利用が便利であるため、現在6803株にも対象を広げ、幾つかのPSIIサブユニット変異株の取得を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
Hik2に関しては、還元型PQにより実際にキナーゼが活性化されるのか。されるのであれば、如何にして細胞質局在のセンサーが膜中のPQレドックスを感知するのかが重要なポイントである。その目的に向けて以下の研究を推進する。1)シアノバクテリアでは明反応系と炭素異化系が同じ電子伝達系を共有しており、PQのレドックス状態が予想外の動きをしている可能性がある。キナーゼ活性調節との相関解析の精度を上げるため、細胞から抽出したPQのレドックス実測データを増やしていく。2)in vitroでのHik2->Rre1リン酸化系の構築し、酸化状態、還元状態のPQに対応したアナログを添加することで、Hik2による感知機構の解析を行う。同様の実験は葉緑体でのPQレドックスセンサーとされるCSKでの成功が報告されており、有効な情報が得られる可能性が高い。3)現状ではどのようにしてHik2がPQを認識するのか?Hik2以外の因子は不要であるか?は不明のままである。この問題への遺伝学的アプローチとして、hik2遺伝子(生育必須)へのlocalized mutagenesisを行い、温度感受性変異の単離からの機能解明を試みる。 Hik34に関してはシアノバクテリアにおける主要な熱ショックセンサーであることが示唆された。Hsp70とセンサーの相互作用が感知に関わるとするとバクテリアに共通の分子機構が示されることになり、基礎的な知見として非常に重要であることから、当初の目標から少し外れるが大目標として含めることとする。 NblSに関しては細胞内でのPSII複合体との相互作用を検討する。また、6803株でPSIIサブユニット変異株を取得し、これら株における強光応答を調べることで、PSIIのどのようなプロセスが感知されキナーゼ活性を調節しているかを特定する。
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