2017 Fiscal Year Annual Research Report
発生過程をつかさどる階層縦断的な時間スケール制御機構の理論的解明
Publicly Offered Research
Project Area | Interplay of developmental clock and extracellular environment in brain formation |
Project/Area Number |
17H05758
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
畠山 哲央 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (50733036)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 発生タイミング / 時間スケール / 統計物理学 / ゆらぎ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、当初、遅い緩和を示す生体分子の模型を多階層化することにより、発生のタイミング制御のための基礎的モデルを見出すことを目標とした。我々の先行研究において、多数の修飾部位をもつ生体分子が同一の酵素を取り合っている状況では、修飾状態が定常状態への非常に遅い緩和を見せる、という現象が見出された。これをさらに複数カップリングさせることにより、発生などに見られる複数の細胞・組織間で、互いに分化などのタイミングを制御し合う現象を説明できるのではないかと考えた。 そこで、実際に模型をカップリングさせる前に、まずモデルの確率的挙動を確かめるべく、統計力学的手法による再モデル化を行った。その結果、先行研究のモデルと同様に、平衡状態への遅い緩和が見られた。同時に、予想外の結果として、温度や酵素量のパラメータの変化に対して、平衡状態での熱力学量ではなく、軌道の相転移が見られることがわかった。さらに、転移点近傍のパラメータ領域では、同一の初期条件からスタートしても、平衡状態への緩和速度がサンプルによって大きく違うということがわかった。これは、生物学的には、たとえ同一のシステムであっても、細胞ごとにその時間スケールが大きく違いうる、ということを示唆する結果である。過去のシステムズバイオロジーの研究では、生体内分子の個数のゆらぎは大きな注目を集めてきたが、時間スケールのゆらぎは、基礎的な模型の不在もあり、殆ど注目を浴びることはなかった。本研究は、生物学における時間スケールのゆらぎの研究の端緒を開くものである。現在、上記の結果は論文投稿準備中である。 また、上記の結果に加えて、代謝ネットワークを構成する基礎的なモチーフである、補酵素をリサイクルしている経路でも、定常状態への遅い緩和が生じることを見出した。この結果は、PLoS Computational Biology誌に掲載済みである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、当初の計画では、先行研究で得られたモデルを多階層へと拡張する予定であった。しかし、モデルの確率的挙動を調べるために、統計物理学的手法を用いてモデリングしたところ、軌道の相転移や時間スケールのゆらぎ等、予想外の結果を得ることができた。これらの発見に関して、領域会議でも重要であるとコメントをもらい、今年度はこれらの結果をもとに研究を進めた。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度以降は、まず今年度の結果を中心に論文をまとめる。また、軌道の相転移、時間スケールのゆらぎなどを他のモデルでも確認する。さらに、領域会議で領域代表の影山先生から、実際の発生過程においても時間スケールのゆらぎが重要であるとの示唆を受けている。そこで、さらに議論を深めることで、実際の発生過程における時間スケールのゆらぎのモデル化、そして理論の確立を試みる。また、モデルの多階層化についても引き続き試みる。
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